借金発覚
それから十数年の歳月が流れた2018年9月。日向さんは48歳、社会人になった息子は22歳、大学に進学した娘は19歳になっていた。2012年から会社の経営を始めた夫を含め家族4人で北関東の賃貸マンションに住んでいた。
ある日、隣室に住む大家の妻から日向さんに「下記の契約書の件、ご存じですか?」というLINEが来た。見ると、契約書のような書類の写真が3枚並んでいる。
「2012年9月4日、2013年2月2日、2013年11月7日」
3つの日付の写真には、「金銭消費貸借契約書」と書かれ、夫のサインがある。夫は、大家に借金をしていたのだ。計1400万円の借金。寝耳に水だった。
「契約書にはすぐ返すようなことが書いてありましたが、夫は私が知った時点で一銭も返済していませんでした。2012年当時、夫は会社設立の時の資金は、自分の兄弟が出してくれたと言っていましたが、嘘でした」
日向さんは夫と2人で大家の妻に謝りに行き、2018年9月から、夫は月10万円ずつ10年以上かけて大家に返済していく約束をした。
それからというもの、日向さんは肩身の狭い思いをして暮らした。息子は社会人になっていたが、まだ娘には学費がかかる。自分のものはめったに買わず、買ってもセール品しか買わなくなった。
2度目の不倫発覚
2020年7月、コロナ禍で世間は自粛ムードなのに、夫は頻繁に出張に出ていた。
少しでも夫の借金を減らし、家計の助けになるために、金融系の会社で事務をしていた日向さんは、同僚たちと雑談をする。「日向さんは夫婦仲が良くて羨ましい」。そういう同僚は10年前に離婚している。日向さんは場の空気を読み、「うちの夫なんて、何やってるかわかんないですよ。先日もオフィスで夫のボロボロのキーケースを見た女性が、『今度素敵なキーケースをプレゼントします』って言ったんですって。信じられます?」と笑い話のつもりで言った。
すると、先輩の女性が話に入ってきた。
「ちょっと待って! オフィスで他人の家や車のキーケースを見るシチュエーションってある? 女が男のキーケース見るのって……」
たちまち顔をこわばらせた日向さんは帰宅すると、一泊で出張に行っている夫の携帯電話の充電器が部屋に置いたままだった。夫の仕事に携帯電話は必需品だ。一日使えば充電はかなり減るはずなのに……。心がざわついていた。これまで出張中の夫にはほとんど連絡しなかったが、LINEせずにはいられなかった。
「充電器が家にあるけど浮気?」
22時を回っていたが、ほどなくして返信があった。
「何考えているんだ? 新しいiPhoneだから、2日ぐらい充電しなくても大丈夫なんだ」
いくら機械に弱い日向さんでも、そんな言い訳には騙されなかった。
「夫は出張の時はいつも、『夜は取引先の接待だから』と言って、私が夜LINEしても返してくることはありませんでしたが、この日は違いました」
疑いが晴れない日向さんは、宿泊先に戻っているはずの夫に電話した。15分鳴らし続けたが、夫は出なかった。嫌な予感しかしない。日向さんは都内の大学に進学し、一人暮らしをしている娘に電話をかけた。娘は状況を察し、「お父さんと3人でビデオ通話しよう!」と提案した。
すると夫は電話に出た。娘は泊まっているホテルの名前を聞いたが、夫は答えない。「部屋にあるホテルのパンフレットを写メして」と言っても応じない。「じゃあお父さん自身を写して」と言うと、渋々写した写真が送られてきた。それは上半身裸で、ベッドから落ちそうなくらい左端で横になっている不自然極まりない写真だった。
「衝撃的でした。夫は裸で寝る習慣はありません。一体どうしてホテルのベッドの端っこに上半身裸でいる自分の写真を送ることができたのでしょう? “右端には誰かいますよ”と言わんばかりの写真を。そんなことに気づけないくらい一緒にいる女性に夢中なのでしょうか?」
翌朝、日向さんは職場に電話し、体調不良で休む旨を伝えた。(以下、後編へ続く)