壮絶な過去とガチンコの日常

取材を進める中でわかってきたのは、廣瀬の嘘のない生き方だ。過去を隠さず、すべてオープン。問題が起きると人任せにせず自分で対処するし、社員の不満は直接聞く。当然、ケンカにもなるが、それでも逃げない。覚せい剤を使う社員を発見すれば、薬物依存症からの回復施設であるダルクに引っ張っていくだけでなく、クスリを売りつけたヤクザの事務所に自ら乗り込んで「うちの社員に手を出すな」と交渉したりもするのだ。

中学入学と同時にヤンキーに目覚めた廣瀬の人生はとにかく波乱万丈。ケンカやカツアゲ、シンナーを皮切りに、家出、覚せい剤デビュー、温泉街でのコンパニオン、ヤクザの性奴隷などを中学生で経験し、18歳でレディス暴走族『魔痢唖』を結成。初代総長となって栃木全域を傘下に収め、覚せい剤の売人として稼ぎまくる。

写真提供=廣瀬伸恵

暴力とSEX、ドラッグ、非合法な金儲けがすべての凄まじい日々。その結果、指名手配までされて、20代の大半を刑務所で過ごす羽目になった。

その廣瀬が、二度と悪の道に戻らないと心に誓い、建設請負会社を立ち上げて、元犯罪者たちの“母親役”を買って出たのだ。中途半端が大嫌いな性格は、いい方向に転べば武器になる。問題だらけの過去も、培ってきたネットワークが社員を守る際には役に立つ。

廣瀬は現場仕事のある日は必ず、夕食を希望する社員のために食事を作っている。そのために自宅の1階を開放し、出入り自由にしているほどだ。ただでさえ過去のある面々である。こちらが心を開かなければ信用されない。

食事が終わると飲み会に発展することもしばしばで、夜が更けるまで社員たちと時間を共にする。また、本音でぶつかり合う場は、社内の人間関係や、個々の精神状態を観察する機会でもある。銀行口座を作れない社員が多いから給料は手渡し。廣瀬は現場に出ないが、そうすることで最低でも月に一度は会話ができる。

「私が非行に走った大きな理由は、寂しさだったんです。そういう子はここにも多い。だから、私は社員たちの“母ちゃん”でいたい。他人の集まりだとしても、ここにいる間は家族同然に付き合うのが私のやり方です」

撮影=中川カンゴロー

その思いが、必ずしも伝わるとはかぎらない。実際、社員はどんどん変わる。生活の基盤を築いて巣立って行く者もいるが、再犯をして捕まる者、ある日突然消える者もいる。

僕は2年半の取材期間に廣瀬宅を20数回訪れたが、社員の入れ替わりやトラブルがそのたびに起きていた。それでも廣瀬がめげないのは、自分を必要とする者がいるという実感があるからだ。見事に立ち直り、会社の幹部になった出所者について話すときの彼女は本当にうれしそうなのである。

「いまでは少しずつ周囲の見方も変わってきて、どこでも手を焼く出所者を『あなたのところで引き受けてほしい』と頼まれることも増えてきました。厄介だとは思わない。逆に、やってやろうと燃えるよね」