日本人特有の腸内環境に合わせた食事をする
日本人が先述した海藻などを食べると、海藻に含まれる水溶性食物繊維をエサとする酪酸菌が腸内で活発になって酪酸を産生する。酪酸が増えることで筋肉の減少を防ぐことができる――。こうしたメカニズムが日本人に長寿をもたらしてきたのだ。
時代とともに食文化も変わってきている。筋肉を増やすためには、もちろん肉や魚などでたんぱく質を摂ることも大切だ。ときにはプロテインの助けを借りるのもいい。戦後たんぱく質摂取量が増えたことで脳出血が減り、栄養学に基づいた食生活の改善が日本人を長寿にしてきたことは間違いない。ただ、長寿地域に住む、筋肉の保たれた高齢者がみな特殊な筋トレをして肉やプロテインをとっているのか、と言えば、間違いなくノーであろう。
やはり、まずは海藻、豆、野菜、味噌汁などをしっかり食べて腸に酪酸を増やすという“日本人の腸にふさわしい”アプローチに立ち返ることも重要である。海藻に含まれる「アルギン酸ナトリウム」は酪酸菌のエサとなる「プレバイオティクス」の働きをして酪酸菌を増やすが、海藻は良質なたんぱく源でもある。
海苔はなんと約40%のたんぱく質を含んでいる。たんぱく質の「質」は、「アミノ酸スコア」で判定されている。肉や卵、乳製品のアミノ酸スコアは100。しかし、これらの食品には脂質が多く、「高カロリー」である。これに対して、海藻は海苔=91、ワカメ=100、昆布=82と非常に高いアミノ酸スコアなのにもかかわらず、「低カロリー」である。
海藻にはヨウ素過剰摂取などのリスク要素も指摘されるものの、日本のように海藻を多く摂っている国でも、若年層ではヨウ素の不足が懸念されている。
筋肉から分泌されるホルモンが大腸がんの発生を抑える
覚えておいてほしいのは、筋肉はただ体を支え、体を動かすためだけのものではないということだ。筋肉もほかの臓器と同じように、生命活動に必要なホルモンを分泌する重要な「内分泌器官」なのである。
しかも筋肉は、がんの発生やがん細胞の増殖を防ぐ“天然の抗がん剤”とも呼べるホルモンをたくさん分泌しているのだ。
イギリスの超一流の医学雑誌『GUT』で発表された論文では、筋肉から分泌される「SPARC(スパーク)」というホルモンが血流にのって大腸まで届き、そこで大腸がんの発生を抑制する働きをしていることが報告されている。
つまり、「筋肉量が多い人ほど大腸がんになりにくい」可能性があるということだ。運動して筋肉量を維持することで、大腸がんのリスクを減らすことができるのである。
世界でもっとも権威のある内科系医学雑誌『The Lancet』にも、大腸がんや乳がんの10%は「不活動(運動不足)」が原因であるという報告が掲載されている。適度な運動に加え、酪酸菌を増やすことがわかった日本古来の食事で筋肉を維持し、常に増やすように心がける。酪酸菌を増やし、筋肉を増やすためにも今まさに必要なことなのだ。