中流域の住民は川勝知事の政治的手腕を求めている
中流域の住民たちは、河原に水がなくなってしまった弊害を学習しながら、いまも「水返せ」の声を上げている。地元では、川勝知事が国や電力会社に強く働き掛けることに期待している。水利権の交渉は河川管理者である川勝知事の重要な仕事なのだ。
もし、川勝知事が中流域の「水返せ」の声に応えようとするならば、すぐにでも、科学的な調査をスタートしなければならない。
生物の多様な生育、生息環境、河川周辺の地下水位の維持などに必要な流量を再確認して、説得力のある流量の必要性を唱えなければならないからだ。
しかし、川勝知事は、リニア問題で南アルプスの自然環境を守ることにあれほど勇ましい発言をするのに、田代ダム問題では黙ったまま下を向いている。
なぜ、歴代知事のように田代ダム問題に真摯に取り組まないのか?
それは簡単な話である。エネルギー問題と密接に関連する水利権は政治的な駆け引きが必要となるからだ。リニア問題のようにただ単にいちゃもんをつけているわけにはいかない。
「水面下の駆け引き」がまるでできない
それには、東電RP、中部電力との交渉だけでなく、永田町(自民党)、霞が関(中央官庁)とパイプを持ち、政治的な駆け引きをしなければならない。
川勝知事は、拙著『知事失格 リニアを遅らせた川勝平太静岡県知事「命の水」』(飛鳥新社)で紹介したように、物議を醸す派手なパフォーマンスは得意でも、地道に政治的手腕を発揮することや水面下での駆け引きが全くできないのだ。
東電RPは、リニア問題で苦境に陥るJR東海へ協力姿勢を明らかにした。この協力が水利権とは無関係とする東電RPの企業論理も理解できる。
一方、数多くの電力開発ダムで干上がった大井川中流域の自然環境保全は、河川管理者の川勝知事が当事者なのだ。
こちらはリニア問題とは、全く別の“土俵上”の問題である。嘘とごまかしによる政治姿勢だけでは何ともならない。
川勝知事は田代ダム案に言い掛かりをつけることで、水利権につなげるかのような主張をするが、実際は、単に自身の政治家としての力量がないことをごまかしているに過ぎない。
リニア問題そのものが複雑怪奇でわかりにくくなっているのは確かだ。
ちゃんと見ていけば、川勝知事の主張は嘘とごまかしだけである。県民は“真実”を見極めなければならない。