台風が近づく中で上がってくる登山客に山小屋管理人が苦言

富士山にかぎらず、2022年の遭難事例を見ると、山の基本を知らない、そして自分の体力・技術レベルを把握できていない人たちによる遭難事故が目立っているように思う。それを改めて感じたのが、SNS上で論議を呼んだ、南アルプス南部にある赤石岳避難小屋の管理人の投稿だ。

写真=iStock.com/Ryosei Watanabe
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発端は、8月16日、管理人がツイッターで登山者に対して苦言を呈したことだった。現地では台風8号の影響でずっと悪天候が続いており、管理人はずっと天気予報の情報を流し続け、注意喚起を促していた。それにもかかわらず、山には次から次へと登山者が上がってきた。管理人はその様子を写真に写し、次のコメントとともにツイッターに投稿した。

〈ぞくぞく避難してきます。遭難一歩手前の登山者ばかりです〉

〈これからぞくぞく来るでしょう。何日も前から情報を発信してますが、今、山を歩いている方たちは天気予報を見ているのかと疑ってしまいます〉

管理人には、「危険を回避してほしいから、何日も前から情報を発信しているのに、なぜ強引に突っ込んできてしまうのだろう。ちゃんと天気予報をチェックしてほしい」という思いがあったという。

悪天候下の高山で行動するリスクを本当にわかっていたか

この投稿に対し、同意の声が上がる一方で、「避難小屋って避難するためにあるんじゃないの?」「山の天候は変わりやすいからなあ」といった批判のコメントも多く寄せられた。

赤石岳避難小屋に続々と逃げ込んできた登山者が、それぞれどれぐらいの登山経験があり、どの程度の力量だったのか、実際のところはわからない。

ただ、事前のリスクマネジメントとして天気予報をチェックするのは当たり前であるし、悪天候の予報だったら計画を中止・変更するのが賢明な判断だろう。もちろん、力量のある登山者なら、「それでも行く」という判断をするのもありかと思うが、「遭難一歩手前の登山者ばかり」という管理人の投稿を見るかぎり、どうもそういう登山者ではなかったようだ。

赤石岳避難小屋のロケーションが、南アルプス中央の最奥部にあること、コロナ禍の影響によって山小屋が予約制となり、宿泊を取りやめるにはキャンセル料がかかってくることなどを考えると、計画の中止・変更がしにくいことは理解できる。

だが、悪天候下の高い山で行動することのリスクを考えると、管理人の苦言はもっともだと思える。

このとき赤石岳避難小屋に逃げ込んできた登山者と、前述した富士山で遭難した人たちが、私には重なって見えたのだった。