フラれる要因は「エリーゼのために」を聴けばわかる?

実はこの曲、楽譜にドイツ語でタイトルが書かれていたのだが、その字があまりに汚なすぎて読めなかったのだ。なんかよくわからないけどエリーゼって書いてあるっぽい、という雰囲気で後世にこのタイトルで知られるようになってしまった。自分の名前のはずだけど汚くて読めないってどういうことなの、と私が贈られたほうなら思う。

非常に美しいピアノの曲だが、これを聴くと、ああやっぱりな、フラれるはずだわ、字が汚いだけじゃなく、と現代でも女性たちの間でそのナルシストぶりがネタにされたりしてしまう。

「エリーゼのために」はまるでお花畑を歩いているかのような滑らかで美しいメロディから始まる。ロマンチックこの上ない。あたりにも爽やかな風が吹いているような名曲だ。中盤には少し激しい雰囲気が現れる。テンポも速くなり盛り上がっていく。そしてまた終盤に最初のフレーズに戻って繰り返す。美しい曲だ。流れるような右手のメロディに左手の伴奏が追いかけていくように攻めていく。右手と左手が重なり合うように同じ音を繰り返す、ロマンチックな指使いまであって。

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「不滅の恋人よ」ラブレターは相手に渡っていない

ベートーヴェン天才だ。だがしかしこの曲を贈られた女性の気持ちになってみると、やっぱり女心に響かなかったのだと思う。私自身を見てるんじゃなくて、私を好きな自分自身に酔ってるなと。

お花畑を歩いているのは「自分の理想たる女性像」。私じゃない。何度も繰り返される同じフレーズが私に向いているようには感じない。キミが好きだよ、こんなに好きだよ、美しいキミを思う僕の心はこんなに激しいんだよ、としつこいくらいに繰り返す。いや、こっち見ろ、である。女性からすれば自分の顔がそこに見えないのだ。表現されているのはベートーヴェン自身の思いだけ。

女性の側からしたら、それが一番受け入れ難い。そんな相手とは困難を乗り越えて共に生きようとは思えない。残念ながらそういうことになってしまうのだろう。いつも。

なお、上梓した『名曲の裏側 クラシック音楽家のヤバすぎる人生』(ポプラ新書)では、「エリーゼのために」をはじめ、筆者がセレクトした楽曲を本文にあるQRコードから聴くことができる。スマートフォンやタブレットで読み込むと音楽ストリーミングサービス「Spotify」で曲を再生することができるので、ぜひ本書をお手に取っていただきたい。

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