財務長官は「全額保護も検討する」と述べたが…

3月以降に起きた一連の米銀破綻は、預金への不安を急速に高めた。多くの米国の中堅銀行は、個人などから集めた預金を、長期の投融資に回した。その多くはITスタートアップ企業に投資するファンドや商業用不動産など、流動性の低いものだった。結果として、シリコンバレー銀行などの破綻、他の中堅銀行の経営不安の高まりによって預金を引き出す個人、法人は増えた。

米国では、連邦預金保険公社(FDIC)が1口座(個人も法人も)あたり25万ドル(約3400万円)までの預金を保護している。さらに、3月にはイエレン財務長官が「必要であれば預金全額保護も検討する」と述べた。

それでも、預金に対する不安が高まっている。特に、今日の世界ではSNSを通して瞬く間に人々の不安などが拡散し、群集心理が高まりやすくなったことは大きい。5月1日にはファーストリパブリック銀行が破綻した。2日にはカリフォルニア州地盤のパックウエスト・バンコープなどの地銀株が大きく下げた。ギャラップの調査時点と比較した場合、預金への不安を強める米国民は一段と増えている可能性がある。

なぜ、日本では預金流出が起きていないのか

一方、わが国では預金が依然として増えている。全国銀行業界(全銀協)が公表する“全国銀行 預金貸出金速報”によると、2023年3月、110ある全国の銀行の総預金は前年同月比で3.3%増えた。

都市銀行(5行)は同3.7%増、地方銀行(62行)は同2.0%増、第2地方銀行(37行)は同2.2%増、信託銀行(4行)は同5.5%増だ。信用金庫業界に関して、信用中央金庫が発表した“2023年3月末の信用金庫の預金・貸出金動向(速報)”によると全国254の信用金庫の預金残高は前年同月比0.8%増加した。

米国では中堅銀行から預金を引き出し、JPモルガンなどの大手行や、相対的に利回りの高い“マネー・マーケット・ファンド(MMF)”、あるいはアップルがサービスを開始した預金口座などに資金を移す人は増えている。一部報道によると、サービス開始から最初の4日間でアップルの預金口座には9億9000万ドル(約1360億円)の資金が流入したようだ。

今のところ、わが国でそうした資金の移動は起きていない。日米の預金の安全性に対する社会心理は異なっているといえる。