掃除機を手放したら掃除がラクになった

最初のきっかけは「節電」だった。

福島の原発事故を機に「実は原発頼みだった便利で快適な暮らし」に今更ながら気づいた私は、まずは個人的にそこから脱却せんと、電気の使用量を可能な限り減らすべく勝手に格闘を始めた。まあそれだけなら珍しくもなんともないことだが、私の場合、一人暮らしゆえ調子に乗る性格を止める人もおらず、事態はどこまでもエスカレート。果てはずっと当たり前に頼ってきた家電製品を「なくてもやっていけるのでは?」と一つ一つ手放していくところにまで至ったのである。

この「暴挙」が、思いもよらなかったバラ色の世界への扉となった。

何しろ驚いたことに、家電を一つ手放すたびに、家事がラクになっていくのである。

いや……これってどう考えてもものすごく変ですよね? だって家電製品というものを一言で定義するならば「家事をラクにするための道具」である。だからいくらお調子者の私とて、それを手放すに当たっては、大げさでもなんでもなく、これから我が日々の暮らしはどんな大変なことになってしまうのかと自分なりに人生をなげうつ覚悟だった。それがいざ手放してみたら家事がめちゃくちゃラクになるなんて、そんなこと、一体誰が想像できようか。

写真=iStock.com/Yana Tikhonova
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でも、これが掛け値なく本当のことなのである。

そうなのだ。本当の本当に、掃除機を手放したら掃除がラクになり、洗濯機を手放したら洗濯がラクになり、炊飯器や電子レンジやついでに冷蔵庫もなくしたら炊事が飛躍的にラクになったのだ! 我ながらキツネにつままれたようである。

そして次の異変は、いろいろ思うところあって50歳で会社を辞めることとなり、人生初の「給料をもらえない生活」に直面した時に起きた。

連日ソロキャンプみたいな生活の始まり

先立つものがないとなれば、当然のごとく享受してきた生活をあれこれあきらめねばならぬ。ということで、まずは家賃を抑えるため高級マンションから老朽ワンルームに引っ越したら超狭い上に収納ゼロ。結局、洋服も化粧品もタオルも食器も調味料も調理道具も、つまりは私が長年にわたり懸命に働いてコツコツ買い集めてきた我があらゆるコレクションをほぼ全て手放す羽目になった。

洋服は、一昔前のベストセラー『フランス人は10着しか服を持たない』(だいわ文庫)を地でいく10着程度、食事はカセットコンロ一個で塩と醬油と味噌だけで全調理を行うという、連日ソロキャンプみたいな生活の始まりである。修行中のお坊さんだってもうちょっとキラキラした暮らしをしてる気がする。