県にはJR東海の強行着工を止める権限があるのか
そもそも、静岡県に国家的プロジェクトを止める権限はあるのだろうか。
実は、県がここまでJR東海に強気でいられるのには理由がある。
川勝知事は『日経ビジネス』(2018年8月20日号)で、JR東海のリニア工事に対して、「静岡県の6人に1人が塗炭の苦しみを味わうことになる。それを黙って見過ごすわけにはいかない」「全量を戻してもらう。これは県民の生死に関わることだ」「おとなしい静岡の人たちがリニア新幹線の線路に座り込みますよ」などとJR東海を脅していた。
ところが、同じ記事の写真説明では一転して、「立派な会社だから、まさか着工を強行することはないだろう」と不安気なコメントを寄せていた。
実は、静岡県のリニア担当者が「県にはJR東海の強行着工を止める権限がない」と川勝知事に話していたのだ。つまり、この時点では川勝知事は「県がいくら騒いでもリニア工事を止める権限がない」と認識していたことになる。そのため、知事は脅すような言葉を用いたり、JR東海の「良心」に呼びかけるような弱腰な発言をしていたのだ。
リニア工事の足かせとなっている「河川法」
だが、その姿勢は一変する。
筆者が取材を進めると、JR東海が「強行着工」に踏み切れない理由、つまり、静岡県に工事を拒否する権限があることがわかった。
それが、「河川法」である。
河川法は、河川区域内の土地に鉄橋など工作物を設置する者は河川管理者(大井川上流部は静岡県)の許可を得なければならないとしている。
南アルプスを貫通するトンネル25キロのうち、静岡工区は8.9キロ区間で、大井川本流・支流などの400メートル超の地下6カ所を通過する。リニアトンネルは深い地下を通過するため、大井川には何ら影響を与えないと思うのが普通だ。
だが、筆者が何度も取材を繰り返すと、河川法を所管する国交省中部地方整備局は「どんな深い地下でも対象となる」と認めた。
JR東海は工事が河川法の対象であることは当然把握していたようだ。ただ、今回のトンネル建設が400メートル超という地下深くのものであり、県からの認可はすんなり下りると考えていたようだ。