リニア計画が静岡県でこじれている理由
静岡県の川勝平太知事の反対によってリニア計画が進んでいないことはよく知られている。しかし、実情がどうなっているのかはほとんど知られていない。
それはテレビや新聞の報道が表面的なものにとどまっているからだ。取材している記者たち自身がちゃんと理解できていないようにすら思える。
筆者はリニア問題を静岡県とJR東海の対立が始まった2018年夏から追いかけ続けている。改めて、リニア問題が袋小路に迷い込んでしまった理由を解説したい。
2023年4月26日、静岡県庁で静岡県地質構造・水資源専門部会が開かれた。ここでは約2時間にわたって、山梨県内で行っているJR東海の「調査ボーリング」の是非が問われた。
どういうことか。いまJR東海は地質調査のために山梨県内で「調査ボーリング」を実施している。静岡県は、静岡―山梨県境で行われているこのボーリング調査によって、山梨県内の断層帯に圧力が掛かり、地下奥深くで連動する可能性のある静岡県の断層帯に影響を与え、静岡県内の地下水が山梨県内に引っ張られ、どんどん流出するのではないかと主張しているのだ。
JR東海は静岡県の術中にはまった
当初、川勝知事は水が水を引っ張るという「サイフォンの原理」を持ち出して懸念を示したが、あまりにも荒唐無稽な主張だったため、途中で誤りを認めて引っ込めた。その代わりに県専門部会長が持ち出したのが、ボーリング調査によって高圧水の出てくるという新たな可能性だ。
だが、筆者が専門家に取材したところ、たとえ高圧水が出ても、10年掛かってわずかな水が山梨側に到達する程度だという。しかし、専門部会では誰もが固く口をつぐむ。
JR東海は静岡県の懸念(言い掛かり)を打ち消すことに躍起だ。「一滴の水の流出も認めない」と主張する静岡県から、県の懸念が現実になった場合の対応を迫られると、JR東海は「水の戻し方や戻す時期について静岡県等と議論を進め、水を戻したい」などと回答した。静岡県の術中にはまり、JR東海が「流出リスク」を認めることで、静岡県の懸念に真実性を与えた。