官僚のトップと議論できる機会がやってきた

その後も、財務官僚と産経社内で会合をもったことがあります。2019(令和元)年10月の消費税率2パーセント引き上げ実施の半年前くらいです。このときは岡本薫明事務次官が単身で産経に乗り込んできました。そして産経役員フロアの大会議室で会長、社長、編集局及び論説の幹部が居並ぶ前で、消費税増税について講演し、質疑応答するというのです。

とくに岡本さんは全国紙のなかで唯一反増税の論陣を張る私を名指しにして、みんなの前で議論したいとのメッセージを編集幹部経由で寄越していました。

そのとき私は「敵ながら、あっぱれ」と財務官僚トップに感じ入り、「さあ勝負だ」と意気込みつつ、会議場に入りました。

議事進行役の編集局長に指名されると、持論の増税反対論を展開しました。1997年度、2014(平成26)年度の消費税増税とも、日本経済に強いデフレ圧力を加える結果になったと、データをもとに説明しました。そして、デフレ圧力が去らないなかでの消費税増税は避けるべきだと主張したわけです。

財務省OBの「最功労者」になるための執念

さぞかし、岡本さんは反撃に努めるだろうと思ったわけですが、彼は一切直接反論しません。経済に及ぼす影響には触れない代わり、消費税増税すれば社会保障財源が確保できると繰り返した末に、「皆さんどうか消費税増税を受け入れてください」と頭を下げるのです。

田村秀男『現代日本経済史 現場記者50年の証言』(ワニ・プラス)

私のほうは「消費税増税してデフレ圧力が高まると、経済活動が萎縮し、消費税収は増税効果で増えても、法人税や所得税収は減るので、財政健全化にはつながらないのではないか」「消費税増税は子育て世代への負担を大きくする」などと批判を重ねるのですが、岡本さんは同じ要請を繰り返すのです。

岡本さんは増税による財源確保、対する私は実体経済への打撃を中心に説明するのですが、論議は噛み合わないままでした。

財務官僚の最高のポストは事務次官ですが、その歴代次官のなかでも、増税を時の政権に実施させた者は、財務省OBの間から最功労者として評価されます。岡本さんがそれを意識していたかどうかはわかりませんが、増税にかける執念には空恐ろしさを覚えました。

財務省のエリートたちは公の場では論争を避け、裏で政治家やメディアを懐柔するのです。

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