無知な民主党幹部を財務官僚が洗脳

たしかに2010(平成22)年6月から2011年9月まで、民主党の菅首相、それを継いだ野田首相も財務官僚のシナリオ通りに動きます。「私の在任中は消費税増税をしない」と宣言した自民党の小泉純一郎政権とは大違いです。

自民党にも財務官僚に従順な議員が多いのですが、それでも大物議員になると財務官僚の言いなりになるとまずいことになることを、橋本龍太郎政権の消費税増税失敗などから学んでいます。

菅氏は「日本はギリシャみたいに財政破綻する」と騒ぎ、財務相に就任するや「私は財務省にどっぷり浸かる」と吐露した野田氏は首相になると「消費税増税すれば景気が良くなる」と言い放って平気だったのです。

こうした政治家の無知につけ込む財務官僚は、「これぞ」と目星を付けた議員には日ごろからコンタクトして洗脳に努めています。財政、経済に疎い民主党幹部は易々と籠絡できたのです。

「なぜ増税するのだ」に沈黙する財務官僚

財務省のほうは消費税増税に向け、先述した吉川報告以降、メディア対策に力を入れます。財務省の幹部が主要全国紙の編集局幹部を行脚し、「ご説明に上がりました」とくるわけです。

財務省発足時の銘板(写真=っ/CC-BY-SA-3.0-migrated/Wikimedia Commons)
財務省発足時の銘板(写真=っ/CC-BY-SA-3.0-migrated/Wikimedia Commons

2012(平成24)年の春ごろだったと思いますが、産経にも財務省の主計局と主税局の幹部ら3人がやってきました。産経の秘書室から私に連絡があり、同席してくれとのことです。私は、すぐに駆けつけ、1997(平成9)年度の消費税増税後、日本経済が慢性デフレになり、しかも政府税収は増税後減りつづけていることを示すグラフを彼らに見せました。

消費税増税は財政健全化どころか、財政収支を悪化させているのです。しかも経済はゼロパーセント以下の長期停滞に陥っています。なのに、なぜ増税するのだと問い詰めます。すると不可解なことに財務省の予算や税のプロたちはひたすら沈黙します。

私は外で別の取材の約束があったので、30分しかいられませんでしたが、彼らは私の前では何ひとつ反論しませんでした。ワシントン特派員時代は通商、通貨、金融、財政について当局者に対し、疑問をぶつけると必ず答えがあったものですが、日本ではそうならないのです。私は内心で「こんな人たちが日本のパワーエリートなのか」と暗然たる思いで会議室をあとにしたものです。