VIP席は視線を避けるのではなく、どこからでも見える空間に

「まだスタジアムが建てられていない段階でしたから、図面を見ても、なかなかイメージができないんですね。模型に小さなカメラを入れていくと、実際にそこの空間にいるような感じになる。そうすると、やっぱここ狭いんだねとか、天井がこんなに低いんだねとかいうのがよく分かるんです。すごくよかったなと思いますね」(酒井さん)

そんな天井を感じさせないように内装を工夫しながら、乃村工藝社チームはファイターズと相談して、バルコニースイートを思い切って開放的な空間にデザインした。

「今までの球場ですと、たいていVIP用の席はブラックボックスになっています。どうしてもスタンドの上のほうで、人影が少し見えるぐらいとか、ほかの席の人とまったく分断して構築されているところが多いんです。

でも、エスコンフィールドではスイートルームのバルコニーがオープンになっていて、隣り合う部屋どうしでお客さまがハイタッチすることだってできる。バルコニーの手すり部分も、あえて開放的な透明ガラスにして、ほかの観客席との一体感を高めました。秘密のVIPルームではなく、球場内のどこからでも見える憧れの観戦バルコニーにしたんです。

バルコニースイートがあるエリアのエントランスは、北海道らしさを表現するために、金属に温かみがある銅を使い、木材は少し荒々しさを残した表面仕上げに。このテイストは、球場内のいろいろな場所で使っていて、家具類も、例えばテーブルの天板に原木のテイストがあるものを使い、北海道の大自然を表現するようにしました」(田村さん)

撮影=永禮賢
バルコニースイートがあるエリアのエントランス。銅と木を使い北海道らしさを表現している

いくつもの“世界初”を実現した発想と工夫

エスコンフィールドには、いくつもの“世界初”“日本初”が盛り込まれているが、そのなかでも出色なのは観戦できる温浴施設「tower 11 onsen&sauna」だ。レフトスタンドの一角に、かつてファイターズで活躍したダルビッシュ有選手、大谷翔平選手の背番号「11」に敬意を払ってTOWER 11(タワー・イレブン)と名付けられたタワーがあり、上層階が温浴施設とホテルになっている。

「計画の最初に、温泉は掘ろうと決めました。世界がまだ見ぬボールパークを目指すなかで、温泉がある球場は世界初ですから、これはもうやる方向でというのがずっとありました。最初は外の事業者さんを誘致することも考えましたけど、球場に密接に関連するので、自社事業としてやることにしたんです。それが4年ぐらい前。その後、サウナがブームになって、球場のコンテンツとしても、より面白くなりました。

ただ、発想はできるけど、本当にやるとなるといろいろと課題が多い。それを乃村工藝社さんと一緒に考えながらやっていきました。例えば今回は、水着を着用して入る温泉プールのような位置付けにして、いくつかのハードルを乗り越えたりしました。裸で入るお風呂からの観戦は、フィールドからも見えるので法律的にダメなんです」(小川さん)

そもそも、球場と温浴施設とでは、管轄する行政も法律も違う。両方の条件や規制をクリアしながら、エンターテイメントとしての魅力を最大化するプランの模索が続いた。乃村工藝社の平野さんが、その紆余うよ曲折を語る。

撮影=永禮賢