一線級のディレクターを異例の7人投入
「白紙に戻した事情はいろいろとあるんですが、改めて乃村工藝社さんにお願いしようと思ったのは、やはりわれわれのニーズをきちんと聞いて、それをいろいろな形で検証して出してくださるからなんです。
もちろん提案力そのものも抜きん出ているのですが、これが一番いいと思いますと提案を押し付けるのではなくて、私たちの意図をよく聞いて、咀嚼して、アウトプットとして出してくださる。結果的に、これ何とかなりませんかと、いろいろとお願いすることになりました」(小川さん)
球場内のホテルと温浴施設は、企画段階から手伝っていたこともあって、最初から乃村工藝社が担当することになり、エスコンフィールドのなかで、タイプの違う現場をいくつも抱えることになった。案件数の拡大とともに、乃村工藝社は人材を投入していく。
「今回は全部で7人のルームチーフクラスが担当しました。ルームチーフとは、案件の責任者が務まる一線級のディレクターなのですが、7人も関わるのは、社内でも聞いたことがありません。観客席とホテルや温浴施設とでは、求められるものが違いますから、それぞれに向いた特徴あるメンバーをアサインしました」(田村さん)
仕切り直しでスタートした施設は、ゼロベースで作業が始められた。
完成プランの提案ではなく、一緒に考えていく
「乃村工藝社さんには、完成された提案ではなくて、一緒につくってくださいというオーダーでお願いしました。例えばバルコニースイートは、ファイターズとして、北海道らしい高級感のあるラウンジにしてほしいということだけがお題としてあって、いきなり案を提示してもらうのではなくて、どんな空間にしようかというところから、一緒に考えていただく感じでした。
ダグアウトクラブラウンジは、野球ファンに向けた観客席ですが、バルコニースイートは、必ずしも野球が好きな方だけに利用してほしいわけではないですし、道外や海外からもたくさんのお客さまに来てほしい。それで北海道の魅力が伝わるような空間をつくってほしいとお願いしました」(酒井さん)
バルコニースイートがあるのは、バックネット裏の特等席エリア。スタンドの中段にある。8人~18人くらいで使えるいくつかの個室に観戦用のバルコニーがあるつくりだが、スタンドの下に部屋を組み込んでいるため、空間は変則的な形になっている。
「バルコニースイートに限らず、どの空間も天井がフラットになっていなくて、フィールドに向けて階段状に下がっていくんです。最初は、図面で見て理解したつもりでいても、現場に入ると感覚が違う。ファイターズさんとは、2週間に1回、定期的な打ち合わせの場を設けていましたが、お土産はお菓子ではなくて(笑)、毎回、論点を変えて大きな模型を用意して、持っていくようにしました」(田村さん)
このお土産は、ファイターズに歓迎された。