本業と関係ないフェイスシールドを作った思い

河合さんはこんなことをしゃべっている。「『自分以外の誰かのために』が社会貢献だ」。対番のためにカイゼンを施した河合さんらしい話だ。

「社会貢献については、アメリカで3D(プリンター)を使って、フェイスシールドをつくり出し、欧州・日本の各所に横展(横展開)をして、昨日までで10万(個)以上を医療の方々に送り届けております。

工場ではマスクも自前で作り、近隣の方々にも提供しようとしています。

ちょうど(トヨタの)運動部が(活動を)自粛している最中なので、選手たちもマスク作りをしてくれています。

そこには当然、トヨタ生産方式があり徹底的にムダを排除して、“1枚でも多く”ということで(やっていますので)(TPSの)良い勉強の場となっております。

休校中の小学校・中学校・幼稚園・保育園に出向いて、草刈りや地域貢献をやったりもしてくれていました」(トヨタイムズ 2020.6.17)

マスクを配ること、校庭の草刈りをすること。やらないよりもやったほうがいいに決まっている。小さな貢献かもしれないが、確実に喜ぶ人がいる。

トヨタは人事において多様性を大切にしてきた。そして、佐藤恒治新社長になってからはさらにその原則を推し進めている。以下は佐藤新社長の発言だ。

河合おやじがその身をもって示している

「『多様性』『成長』『貢献』の3つを柱に、人事制度や仕組みの見直しを進めたいと思います。トヨタで働く一人ひとりが、『多様』な個性を力に変えて、挑戦と失敗を繰り返す中で『成長』を実感できる。(中略)

まず『多様性』です。

トヨタで働く皆さんが、自分らしい人生を歩むための多様な選択肢をつくってまいります。

そのひとつとして、年内に、製造現場も含めたあらゆる現場で、誰もが気兼ねなく、パートナー育休を取得できる環境を整えます。また、今年の10月からは、社内公募制を本格導入し、2024年4月からは、社内FA制度を新設いたします」(トヨタイムズ 2023.3.15

河合さんは今も自分が育った鍛造セクションの仕事部屋にいる。そこから現場までは50メートルも離れていない。何があってもすぐに駆けつけることができる。

河合おやじがいるかぎり、トヨタは多様性と自由を重んじている。そして、偉そうな経営用語ではなく、わかりやすい言葉で経営を語る。

関連記事
「私は聞いていない」という上司はムダな存在…トヨタ社内に貼ってある「仕事の7つのムダ」のすさまじさ
トヨタは「会社の花見」でもカイゼンを繰り返す…「花見の幹事」から役員に出世した人がやっていたウラ技
これだけは絶対にやってはいけない…稲盛和夫氏が断言した「成功しない人」に共通するたった1つのこと
現場にある「日本の心」にほれ込んだ…キューバの英雄・ゲバラが「無名時代のトヨタ工場」を見に来たワケ
認知症よりも怖い…高齢者医療の専門家・和田秀樹が「人生最大級の悲劇」と断言する"死にいたる病"