こころの「自在ホンヤク機」の使い道

では、まだ実在していない自在ホンヤク機はどのような姿かたちになるのかを問うと筒井は、スマートフォンはもちろん、VR(仮想現実)ゴーグルやAR(拡張現実)グラスなどの小型デバイス、映像を立体的に表現するプロジェクションマッピング、さらには各種支援ロボットなど、様々なデバイスをあげた。

つまり自在ホンヤク機の本体はハードウェアではなく、各種デバイスにインストールされるソフトウェアなのだ。

自在ホンヤク機の機能としては、解釈機の部分と、表現機の部分がある。解釈機は相手の意図や感情を解釈する。表現機は最適な表現を判断し、相手のディスプレイにその情報を伝えるのだ。

その具体的な使い方として、筒井は次のようなモードを例としてあげた。

タブレット型の装置を話している相手に向かってかざすと、相手がどう思っているのか、何を考えているのかがわかりやすく表示される「どう思っているの? モード」。

同じ場面で、今度は自分がどう思われているのか、相手の気持ちや、相手の自分に対する見方が表示される「どう思われているの? モード」。

相手を知るための補足情報を提供してくれる「データ提供モード」。

複数の人が装着している場合に、装着している人たちの共同作業を、本人たちの負担にならないような形で、気づかないような形で、こっそりサポートしてくれる「こっそりサポートモード」、さらには“私はあなた、あなたは私”的な感性を導く「シンクロ増強モード」まで。

ダンス教室で互いのイメージを見ながら踊る

実際に自在ホンヤク機が使われている場面を想像してみよう。軽量なゴーグル型のヘッドマウントディスプレイを頭部に装着する。このデバイスには脳波計もついていて、それぞれの思考を脳波から読み取ることができるようになっている。仮に、先生が生徒にダンスのレッスンをしている場面としよう。

解釈と表現の機能がある。(提供=東北大学 筒井健一郎教授)

相手が今、何を考え、どう思っているのか、お互いのディスプレイ画面にわかりやすく表示される。それは箇条書きのような文字で示されることもあれば、例えば好きや嫌い、楽しいとか、怒りなど、読み取りやすい表情として表されることもある。実際の演技指導に入ると、先生が言葉で説明しながら思い描いたイメージがVRやARの機能を使い、生徒のディスプレイに映像となって映し出される。先生が実際に踊らなくても、生徒はその画像をなぞって身体を動かすことで、言葉にしにくい説明を体感できるのだ。

生徒の人数が複数になって、グループでダンスを踊る場面になると、自在ホンヤク機はいっそう威力を発揮する。それぞれのディスプレイに、各自が踊るイメージが表示される。それに従うと、すべてのユーザーがひとつの身体に統合されたような一体感を味わうことができるようになったり、別々の動きを的確に表現できるようになったりする。