夫にも自分の両親にも頼れないワンオペ育児

「もし自分の親が、子どもが保護されたことを知ったら、何を言われるかわからない。この後、親とやっていけない。許してもらえない。ひどいことになる。絶対に知らせないでほしい」

咲希さんは児相担当者にこう訴えます。咲希さん以外にも、「子どもの保護がばれて、『お前、何やってるんだ!』と自分の親から罵倒された」といったことを訴える親御さんは珍しくありません。

咲希さんの父母は車で15分程の所で生活していますが、普段はあまり行き来がありません。父は現役で働く教育関係者です。自分の子どもが児童虐待を行った、となればとても許してもらえないことでしょう。咲希さんは「父親に知られてしまったら生きていけない」と訴えます。

通常ならば、子どもを保護されるような体験は人生最大のピンチです。しかし、その最大のピンチの時に、親に頼ることができないのです。頼るどころか、「不適切な自分」を知られることは恐怖でしかありません。

そして、最も頼れるはずのパートナーの夫は、育児に疲弊する咲希さんへの理解はありませんでした。マミちゃんに対しても「俺に全く似ていないよな。どんくさいのもお前そっくり。女の子なのに、肌カサカサで」などと言い、距離を感じます。父親似の弟の大和くんとの扱いも違います。今回のマミちゃんの保護についても、「しばらく離れて見てもらって、咲希もよかったんじゃないか」と、咲希さんの悲しみに寄り添う言葉をかけることはありませんでした。

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保護により、一層孤独に陥る母親たち

このように、子どもが保護の対象になるという最大のピンチの時に、咲希さんは、以前より一層孤独になります。

「自分が保健師さんに相談の電話をしたために一時保護になったことを、夫や姑から『そんなはずかしいことを』と責められた。相談の電話なんてしなければよかった……」

というお母さんもいました。

このお母さんは子どもが保護された時、「お母さんもきっと大変だったんですね。これから子どもさんとのこと、一緒に考えていきましょうね。お母さんは一人ではありません」と泣いている自分をじっと見て、寄り添ってくれた児相の職員に、嘘ではない真剣さを感じました。そして、これまでの子どもとの過酷な日々と、夫のことについて相談したいと思っていました。

しかし、すぐに夫が、「お前はバカか。あいつらは仕事だから、お前に優しい言葉をかけるんだ。相談なんかしたら、よけいに子どもが帰ってこなくなる。子どものことは俺に任せておけ。お前は余計なことを言うな。そもそもお前が……」とお母さんを追い込みました。

それで彼女は、児相の職員に相談することができなくなってしまったのです。

また、家族だけでなく、子どもが保護されたことが親戚、近隣や職場の人に知られたことで、「皆の目が怖い、信頼を失った」と感じて、孤独を感じている人もいます。

この時の咲希さんの苦痛や恐れの中身
・一人でこの感情をどうやって抱えたらいいの? →「孤独感」

最大のピンチの時に頼れる人がいないという、「孤独感」を募らせていると考えられます。