デジタルと「共存」するために、既存の文具を変える
――新しい製品の開発に至るプロセスを教えていただけますか
亀田:こういう言い方は変ですが、当社は「本気の開発」というものをやっていません。われわれは大手における企画職の仕事をして、実際の試作、生産はパートナー企業に委託するファブレスモデルで事業を展開しています。
製品ごとにもっとも適したパートナー企業さんと組んでいます。製品によっては20年以上のお付き合いになりますから、パートナー選びは非常に重要です。信頼できるパートナー企業さんを社外でどれだけ確保できるかが生命線なのです。
これは大手企業さんからよく聞く話ですが、社内でもつくれるものをわざわざ外部のメーカーに委託して生産していることがあり、理由を聞くと「内製だと高いから」というのです(笑)。このように外部に委託することで、コストが抑えられるケースも少なくありません。テプラが出た1988年当時、当社にはノウハウも技術もなにもありませんでした。勝てる製品を出すためには外部に頼まざるをえなかった。それがかえって奏功したのだと思います。
開発本部の下には開発1~4課、商品企画部、エンジニアリング部を置いています。それぞれゆるやかな担当業務がありますが、すべての部署が企画立案を行う体制です。
商品企画は3ステップで行われます。部課内での検討をパスした企画を本部が決裁し、最後に社長以下経営陣を含む開発会議でオーソライズされれば製品化される流れです。開発会議では入社年次に関係なく発案者がプレゼンテーションを行います。
企画は出せばいいというものではなく、年ごとにテーマを決めて取り組んでいます。現在は電子文具のさらなる強化と、われわれが「デジアナ」と呼んでいるデジタル活用を前提にしたアナログ文具の開発を優先しています。iPhoneをはじめとするスマートフォンは大変便利な機器ですが、万能ではありません。そこを補うことができれば、文具はデジタル機器と共存できるのです。既存の文具を見直して、共存できるようにつくり変えるのです。
――求める開発者像はどういったものでしょうか。
亀田:とにかく好奇心の強い人を求めています。開発会議では、製品の実現性、加工先のメド、簡単な想定収支さえ最低限整っていれば、問われる条件は少ない人数でも熱烈に支持される製品か否か、という一点です。当社では入社年次に関係なく、発案者がチームをつくって最後の製品化まで漕ぎつけます。経営トップが「とにかく新しいものを出すんだ」「失敗してもかまわない」という方針を明確に示していますので、いまはどんどん新しいことをやっていくのだという意識が浸透し非常にうまく回っている状態です。