プレゼンでの反応は冷たかった

事務用ファイルやラベルライターの「テプラ」で知られる文具メーカー、キングジムが久しぶりにヒット商品を出した。文章を入力する機能だけを持つデジタル機器で、名前は「ポメラ」という。

大きさは文庫本のサイズで、重さは約370グラム。パソコンより断然軽いから持ち運びには便利だ。また、起動が速く(約2秒)、しかも単四乾電池2本で20時間使える。ただしネットへの接続はできないから、検索したりメールを送ったりすることはできない。

これまでパソコンを持ち歩いて文書を作成していた人、文字を手で書くよりキーボードで入力したほうが速いと感じている人にはぴったりのモバイルギアといえる。

発売は2008年11月。初年度の売り上げ目標は3万台だったが、初回出荷の1万台をわずか1日で売り切ってしまったため、目標は年間10万台に上方修正された。

開発者でキングジム開発本部・開発課リーダーを務める立石幸士はポメラのアイデアを思いついた経緯について、次のように語る。

「私自身、出張の際パソコンを持ち歩いていて、重たいし、起動が遅くていらいらした経験がありました。起動が遅いとメモしようとしてもタイミングを逃してしまうことがある。そこで、メモを取ること、文書を書くことだけに徹した機器を開発しようと思ったのです。目的を絞れば起動に時間がかからないようにできるし、電源を乾電池にすることもできる。技術革新の結果開発できたのではなく、アイデアで勝負した商品です」

立石は淡々と説明した後、笑顔になって「でも、開発会議をクリアするのは大変でした」と続けた。

「開発会議でプレゼンしたときは冷たい反応で、賛成者はひとりしかいなかった。でも、社長がやってみようと決断してくれました」

ポメラの開発にゴーサインが出たのは07年12月3日のこと。同社で毎月行われる開発会議の席上だった。開発会議は月の初めに開かれ、社長以下、経営幹部と各部門長など30人前後が集まる。開発会議を通ったプランには予算がつき、市販化を前提とする開発が許される。開発者にとっては自分のプランの採否が決まる緊張の瞬間だ。