「無駄に参加者が多い会議」の奇妙な作法

仕事の現場はとにかく「空気」だらけである。特にそれが表れるのが会議の場だ。会議なんてものは各部署の意思決定者だけが参加すれば成立すると思うのだが、なぜかゾロゾロと人がやってくる。かつての広告業界の例でいえば、5つの部署から人が来て、プレゼンに向けた会議をするなんてことがザラにある。営業・マーケティング・制作・PR・SPの5部署からそれぞれ3~6人がやってくるとなると、参加者は20人を超える。

しかし、この会議で喋るのは各部署の一番エラい人、もしくはナンバーツー的な人だけだ。その他の下っ端はただメモを取っているのみ。会議室のテーブル席には主要メンバーが座り、下っ端は隣の会議室から椅子を持ってきて壁際に座る。国会の委員会、審査会で政治家やエラい官僚がテーブル席に座り、後ろに下っ端が控えている映像を見たことがある人も多いだろう。アレと同じなのである。

加えて、こうした会議では、最終的に意思決定をする各部署の一番エラい人ないしはナンバーツーが遅刻をすることは、なぜか許される。時間どおり集まったメンバーたちは「Xさん、まだ来ませんね」「忙しいんですかね」などとときおり口にするだけで、1時間半ものあいだ、ほぼ黙って待機していることさえあった。そして、当のX氏は酒を飲み、顔を真っ赤にした状態で悪びれもせず登場。「いやいや、クライアントから情報、取ってきたからさ~」「で、どこまで進んだ?」なんてやるのだ。

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仕事にまつわる理不尽も「空気」のせい

そんなこんなで、会議冒頭ですでに語られた案件趣旨や決めるべき事柄について、改めて説明が始まる。続いて、メンバーたちがそれまでに検討を重ねてきた案──重鎮たるX氏の考えそうなアイデアがポツポツと提案される。まあ、悪い案ではないし、一同もおおむね納得しているから、せいぜい微調整程度の指摘を受けるだけでゴーサインが出るか……と思いきや「う~ん」と白々しくうなり始めるX氏。「なんかピンとこないな~」「こういうの、クライアントは好きじゃないと思うんだよね~」などと、いきなりちゃぶ台をひっくり返し、これまでの1時間45分の会議(さらにいえば、会議に至るまでの各部門での検討)を完全にぶち壊す。

しかし「Xさんが遅刻するのが悪いんです。アナタが不在のあいだにわれわれは議論を重ねて、一定の結論に至りました。もう、この方向で進めようと思います!」などと反旗を翻すことは不可能である。何しろこの場の「空気」はX氏が握っているのだから。おまけに「遅刻するほうがエラい。売れっ子である証し」という「空気」もある。「優秀な人ほど忙しい」「忙しいのだから、会議に遅れても悪くない」という価値観がまかり通ってしまう。遅刻した人も「オレ様が売れっ子だからお前たちに給料が払われているんだぞ」といったプライド、そしてマウンティングの意識があるのだろう。

こうした光景を目にしているから、若手社員は定時に仕事が終わっていたとしても帰ることができない。「いま帰ったら無能だと思われてしまう」という恐怖から、どうでもいいPDF資料を見返すなど仕事をしているフリで、時間をつぶす。その意味で、パソコンは「熱心に仕事に取り組んでいるフリ」ができる最高のツールといえる。実際はPDFやワードファイルを開いた横で、なんとなくネット記事を見ているだけだったりするのだが、「情報収集しております!」という雰囲気を出せば、仕事をしているように見せかけるのも容易だ。