香港の民主化デモをめぐり関係に亀裂

黄金時代を築いた保守党党首の立場であるにもかかわらず、スナク首相は対中宥和姿勢を真っ向から否定した。それほどまでに彼を突き動かす原動力はなんなのだろう。

英国では、中国の習近平政権による「権威主義の過激化」が進んでいると理解されている。例えば、高級紙ガーディアンは、「中国の警察当局が目下行っている、不服従な市民への封じ込め対策は武力行使を伴っており、過去数十年で最も厳しい」と指摘。実際に、英国国民の多くは「中国に対して、政府はもっと強気に出るべき」と考えている。

権威主義を象徴するものといえば、香港の民主化デモに対する中国政府の過激な取り締まりが挙げられる。英国では2021年から、香港返還以前に生まれた市民を対象に、英国へ移住しやすくなるようビザの受け付けを始めた。中国が“一国二制度”を一方的に破棄したとみなす英国と、香港からの「逃げ道」を作っていると考える中国との間で、大きく亀裂が入ったことは言うまでもない。

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スナク首相はインド系の血を引くが、もともと中印関係もヒマラヤ山中での国境線で小競り合いを繰り返しており、「中国は不快な相手」という深層心理がどこかにあるのかもしれない。

水際対策を撤廃後、中国だけを狙い撃ち

スナク首相の中国に対する冷たさは、新型コロナの水際対策にも顕著に表れている。中国は昨年末、ついに「ゼロコロナからの脱却」へと大きく舵を切ったが、その感染状況については世界保健機関(WHO)さえも、リアルタイムかつ具体的な情報を定期的に共有するよう要請を出しているほどで、実際のところは誰にもわからない。

そのことを懸念したのか、英国政府は昨年12月30日、中国からの渡航者に対して入国制限を行う方針を各国に先駆けて表明した。水際措置は半年以上も前に撤廃されているので、中国を狙い撃ちした形だ。

内容は、「中国本土からの直行便の渡航者に出国前2日以内の検査を義務付け」と、「搭乗前に陰性証明の提示を求める」といったものだ。

12月30日付、中国からの渡航者への要請
・中国との間で、包括的なコロナに関する情報が共有されていないため、中国からの入国者に特化してこれらの措置を導入すると決定。
・入国条件の適正化については引き続き検討中であり、英国は次のステップについて中国と協働。
・情報共有と透明性の向上に改善が見られるならば、一時的な措置を見直す予定。

特に筆者の目をひいたのは、3つ目の「情報共有と透明性の向上に改善が見られるならば」というフレーズだ。