各所で勃発する「妻vs夫」「高齢者vs若者」

こうした関係は、家庭や社会でも認められる。たとえば、共働きの家庭では、「私も働いているのに、家事も育児もほとんど私がやっている。たまに夫が手伝ってくれても、お皿に汚れが残っていたり、洗濯物がしわくちゃになったりするので、結局私がやり直さないといけない」と愚痴をこぼす妻が多い。

一方、夫も「夜遅くまで働いてクタクタに疲れて帰っているのに、『全然手伝ってくれない』と愚痴を聞かされる。土日くらいはゆっくり休みたいのに、『私も働いているんだから、休みの日くらい手伝って』と頼まれる。手伝っても、『やり方が悪い』と文句を言われるので、腹が立つ」と不満を漏らす。

社会に目を向けても、自分たちの払っている年金保険料が高齢者に奪われているように感じて怒りを覚える若者と、長年真面目に働き年金保険料を納めてきたのに、その割には受け取る年金額が少ないと不満を募らせる高齢者の間に同様の関係があるような印象を受ける。

受け取る年金額の少なさに不満を抱く高齢者が多い現状は、年金事務所に勤務する職員のメンタルヘルスにも影響を与える。私の外来に通院中の40代の年金事務所職員の男性は、毎年1月から3月にかけて調子が悪くなる。

高齢者も若者も被害者意識を抱いている

これには、それなりの理由がある。定年退職者の多くは、だいたい3月末に退職し、4月から年金を受給するので、その前に年金事務所に相談にやってくる。その際、自分が受け取れる年金額が、予想よりも少ないことに愕然とするらしく、「なんでこんなに少ないんだ」「こんなの詐欺じゃないか」などと暴言を吐く人もいるようだ。そういう人への対応で疲れ果てて、調子を崩すわけである。

この年金事務所職員の心身の不調は、定年退職者の年金に対する不満の強さを反映している。一方、年金保険料を払っている現役世代、とくに若者の間にも不満は鬱積している。20代の若者から、「このまま少子高齢化が進んだら、自分たちの世代は年金なんかもらえないんじゃないですか。給料から毎月結構な額を自動的に引かれているけど、払い損なんじゃないですか」と尋ねられたこともある。彼らもやはり強い被害者意識を抱いている。

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このように自分こそ被害者だと多くの人々が思い込んでいるのが、日本の現状だ。被害者意識が強くなると、加害者とみなす相手に対して怒りを覚え、罰を与えたいと願うようになる。そのため、どうしても攻撃的になりやすいが、それを悪いとは思わない。なぜかといえば、「自分は被害者で、割を食ったのだから、これくらいのことは許されるはず」と正当化するからだ。