市川團十郎・Snow Man宮舘涼太の共演は異色

歌舞伎界でも当然、未来を危ぶむ声は大きい。それゆえにいろいろな試みがなされてきた。

劇界の風雲児とも言われた先代の3代目市川猿之助は昭和61年にスーパー歌舞伎の第一弾「ヤマトタケル」を上演した。その甥にあたる現在の猿之助もスーパー歌舞伎を継承し、「スーパー歌舞伎IIワンピース」等で話題となった。中村獅童はバーチャルアイドル初音ミクと共演する「超歌舞伎」に挑んでいる。これらは表現様式が歌舞伎であっても、伝統歌舞伎の文脈からは逸脱している。

2006年3月に新橋演舞場で初演された、滝沢秀明主演の時代劇LIVEミュージカル「滝沢演舞場」はジャニーズとのコラボレーションだ。滝沢が現役を退いた後は2019年からは『滝沢歌舞伎ZERO』と名前を変え、Snow Manが主演を務める。しかし、そこで見られるのはジャニーズのエンタメにおける和テイスト、歌舞伎様式の導入であり、歌舞伎自体がジャニーズ要素を取り入れたという感じはしない。

筆者撮影
若い女性で賑わう新橋演舞場SANEMOI公演=2023年1月9日

そうした中にあって、團十郎×宮舘涼太の共演は異色だ。

團十郎は歌舞伎の破壊者などのイメージで語られることもあるが、この「SANEMORI」はいたって伝統歌舞伎の枠組みにはまっているのだ。ジャニーズエンタメに歌舞伎要素が入ったのではなく、歌舞伎公演で役者としてジャニーズメンバーが主役級を勤めたということだ。この点は従来のスーパー歌舞伎、ジャニーズとのコラボと異なる。

宮舘の起用に歌舞伎の未来を感じる

現代語的なセリフ、舞台装置・照明の現代的活用、通常の歌舞伎音楽では使わない和太鼓の利用などはあるが、物語、舞台設定、人物描写などは伝統的な時代物歌舞伎そのものだ。

そのなかで主人公・斉藤実盛を團十郎が演じ、木曽先生義賢と源義仲の父子二役を宮舘涼太が演じきった。歌舞伎は実力ある舞台俳優でも簡単に演じられるものではない。独特なセリフ回しの「口跡」と、日本舞踊の修行から生まれる「所作」が大事だからだ。筆者が見るに、宮舘はどちらもまだ「板についている」という感じではないが、歌舞伎を演じきっている。

今の中村勘九郎の父・18代目勘三郎は、因習にとらわれず積極的に歌舞伎界以外からも役者を登用した。かつての芝居小屋を再現した「中村座」を中心に笹野高史や荒川良々などの個性ある俳優が出演したが、それでも「世話物」といわれる現代にも通じる人情噺の舞台だった。

しかし、今回の宮舘の起用は「時代物」と言われる歌舞伎ならではのジャンルで、義太夫に乗せた語りもある。これも團十郎×宮舘涼太の共演が異色である理由である。