約1カ月後、Aさんは「防犯カメラの映像を見せてほしい」と目白署に依頼しました。しかし担当者からは、「衝撃的な映像なので、落ち着いてからのほうが……」の一点張りだったと言います。
「せっかく加害者の姿が映っているのに、なぜ活用しないのか?」
不安を覚えたAさんは警視庁にも出向き状況を説明しましたが真摯な対応は見られなかったため、思い切ってビルの管理会社に連絡を入れたところ、快く防犯カメラの映像を提供していただけたそうです。
Aさんは悔しそうに語ります。
「でも、この時点ですでに1カ月半が経過していました。事故直後からこの映像を公開していれば、何らかの手掛かりがつかめたかもしれなかったのに、残念です」
人が死なないと警察は本気で動かない
ひき逃げと言えば、「警察24時」のような特集番組でよく見る、「地を這うような緻密な捜査」を思い浮かべる人も多いことでしょう。実際に死亡ひき逃げ事件の検挙率は毎年90~100%で、ほとんどの犯人が逮捕されています。
ところが、同じひき逃げでも、被害者が軽傷の場合は、検挙率が格段と低くなってしまうことをご存じでしょうか。
警察庁交通局の統計によると、2003年前後のひき逃げ事件の全検挙率(死亡・傷害の合計)は、25%前後にとどまっていました。ちなみに、2004年はひき逃げ事件が2万283件発生しましたが、全検挙率は25.9%。つまり、約1万5000人の被害者が、治療費をはじめ一切の賠償を受けられないまま、泣き寝入りを強いられていたことになります。
2008年になると全検挙率は40~50%台になり、2020年には70.2%まで上昇しています。それでもAさんのように悔しい思いをしている人はまだまだいるということです。
「被害者はお気の毒ですが…」警察官の言い訳
ではなぜ、ひき逃げにもかかわらず、犯人が見つからないという事態が続いているのでしょうか。
現職の警察官に尋ねてみたところ、
「ひき逃げは悪質な事案なので本来はきちんと捜査すべきなんですが、被害が軽い場合は組織的な捜査はしていません。被害者はお気の毒ですが、人員も限られているので……」
という答えが返ってきました。