平成の30年間に根を張った「デフレマインド」
デフレマインドとは、一般にデフレ不況が長く続くことによって生じる人々の心の保守性のようなものです。何か思い切りのよさがなくなって守りに入ってしまうマインドのことです。企業経営者がこのデフレマインドに浸って、賃上げしないのはその現れの一つで、他には果敢に投資をしないで、留保金をため込んでばかりというのもあります。労働者もまた、この平成の30年間で、公務員志向、安定志向になり、保守性が身についてしまいました。
さらに政府にもデフレマインドがしみついて、思い切ってお金を使わなくなってしまっていることが見て取れます。研究開発や科学技術にもお金を投じないし、教育にもお金を投じない。未来のために何か思い切ってお金を使うということをしなくなっています。
子供達一人ひとりの知的好奇心を育てるような教育を行うには、それなりにコストがかかります。お金をかけないで目に見える成果を出そうとすれば、これまで通りの詰め込み教育になってしまうでしょう。
これでは日本が発展するわけはありません。政府が未来への投資をやめれば、労働者も消費者も思い切ってお金を使わなくなります。けちけち病などという言い方もあるように、今はみんなでけちってお金を使わず、守りに入っている状態です。
「アニマルスピリッツ」が失われてしまった
この「デフレマインド」の反対語は「アニマルスピリッツ」でしょう。これはケインズの『一般理論』に出てくる言葉です。新しい技術やイノベーションがモノになるかどうかわからないものの、企業経営者がその不確実性に思い切って賭けてみるという精神のことです。今やこの精神がすっかり失われてしまい、経営者はデフレマインドに浸ってしまっているわけです。
最近たまたまネットの記事を眺めていたら、日本映画について述べた映画監督の井筒和幸さんの言葉が目に留まりました。「日本映画は日本経済と一緒でまったくダメ。手堅く稼ごう、とにかく採算取れたらいいとしか考えてないから。映画なんてのはもともと(当たるか当たらないかの)大バクチなのに、リスクを分散させてばかりで、バクチ的な思考が消えてしまったね」(「ENCOUNT」2022・7・21)という印象的な発言ですが、これは映画に限らず、すべてのビジネスに言えると思います。