「5年間で43兆円」の根拠はどこにあるのか…

もちろん、萩生田氏の発言は「正論」である。民主党時代の野田佳彦首相は消費増税を掲げて総選挙に惨敗、政権の座を去った。

その後、安倍晋三首相時代には、消費税率を5%から8%、そして10%へと引き上げたが、総選挙に勝利し続けた。高い支持率に支えられていたとはいえ、経済情勢をにらんで実施時期を延期する措置を取り、ようやく増税にたどりついた。

反対論は根強かったものの、「国民への説明」に腐心したと言っていい。

だが、岸田首相の場合は、「国民への説明」が抜け落ちている。2022年5月に来日したジョー・バイデン米大統領との会談で、防衛費の「相当な増額」を表明したものの、具体的な金額は予算編成のギリギリまで明かさなかった。

「金額ありきではない」と繰り返し言いながら、5年間で43兆円という金額がどんな積算根拠があって導き出された金額なのか、国民にはほとんど説明されていない。

「国民への説明」の前に批判回避を優先している

7月の参議院選挙の自民党公約では「NATO諸国の国防予算の対GDP比目標(2%以上)も念頭に、真に必要な防衛関係費を積み上げ、来年度から5年以内に、防衛力の抜本的強化に必要な予算水準の達成を目指します」とあったが、経済規模も福祉体制も違うNATO諸国と同じ「2%以上」がなぜ必要なのかの説明も、「抜本的強化に必要」な金額がいくらなのかも明示されていない。

それで選挙に勝ったから「国民の理解を得た」というのは言い過ぎだろう。しかも、それを賄うための「増税」についてはひとことの言及もない。

現在の安全保障環境を考えれば、防衛力の増強は必要だという声は国民の間にも少なくない。そのためなら増税もやむを得ない、と考える人もいるだろう。防衛費がいくら必要かを明示して増税で賄うと真正面から説明するのが筋ではないか。

ところが43兆円の中味についても説明が乏しいうえ、増税にも真正面から向き合っていない。剰余金などの「やりくり」で大半を賄うという説明も不誠実だ。そんな「やりくり」ができるということは、これまでの予算が大甘だったと白状しているようなものだろう。

足りないという「年1兆円」余りの増税についても、国民の批判を浴びにくい法人税とし、しかも中小企業は除外すると「批判回避」を最優先にしている。所得増税にしても「高額所得者」を対象にしておけば、一般庶民は反対しないという思いが見え見えだ。そもそも国民を説得しようという気概がないのである。