霞が関の得意技は未来の政権まで縛ること

復興増税分を防衛費に回すというのも国民への「目くらまし」。今すでに負担しているものだから、防衛費に回しても変わらないだろうという発想だ。だが、復興支援のために皆で薄く広く負担しようという「国民の善意」で成り立っている復興増税を、議論なしに防衛費に振り替えるのは不誠実どころか、詐欺的ですらある。

防衛費を「5年間で43兆円」とし、増税を「2024年以降、適切な時期に」としているのも国民の批判をかわすための「目くらまし」である。今すぐに負担が増えなければ国民は文句を言わない、岸田内閣に批判が集中することはない、というわけだ。だが、岸田内閣が今後5年間続くと思っている国民はまずいないし、その間に選挙もある。次や、次の次の内閣を岸田首相が縛ることになるわけだ。

萩生田氏の増税前には選挙で信を問うべきだという発言に世論が同調する傾向があるためか、岸田首相は年末のテレビ番組でこんな発言をした。

「国民の皆さんに負担をお願いするのは、令和6年以降の適切な時期、終わりが令和9年ですから、その間の適切な時期となります。スタートの時期はこれから決定するわけで、それまでには選挙があると思います」

いかにも増税前に選挙で信を問うと言っているように聞こえるが、令和7年(2025年)にはもともと参議院選挙が控えている。岸田首相は自らの手で解散すると言ったわけではない。むしろ、自らが早期に解散総選挙に打って出ることを否定しているようにすら聞こえる。いずれにせよ、2024年以降の首相の手足を縛っている格好なのだ。 

この先行きを縛るやり方は、霞が関の得意技である。いったん「閣議決定」してしまえば、自民党内閣が続く限り、それを反故にすることは難しい。政権交代したとしても、以前の政策を否定する法案を再度通すのは簡単ではない。

年金保険や健康保険の掛け金率が10年にわたって引き上げられることが続いていたが、これも、1回の法律改正で10年間を縛ることができた。霞が関にとっては毎年国会審議を通す必要もない。今回の防衛増税でも、43兆円を先に決めておいて、それが賄えないとなれば追加で増税する口実になっていくだろう。

消費税は1%で2兆円の「打ち出の小槌」

法人税は景気が悪化すれば税収が減る。防衛力増強を求める人たちからも財源を法人税にすることでは「安定財源」ならないという批判がある。

そんな声も消費税率を引き上げたい財務省の思いを後押しすることになる。今のところ消費税は社会保障費に充てるという大方針があり、防衛費の財源に消費増税を充てることは難しい。

真正面から消費増税するには、この「制限」を取り払う必要があるが、お金に色があるわけではない。他の財源を防衛費に回していけば、社会保障費が足らなくなり、消費増税議論が出てくる。消費税は1%で2兆円以上の税収増になる財務省にとっては「打ち出の小槌」だ。

「TAX」と書かれた木製ブロックを上方に積み上げる手元
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だが消費増税すれば、消費に影響が出る。実際、2019年10月に消費増税する前のGDP(国内総生産)額をいまだに日本は上回っていない。2020年からの新型コロナウイルス蔓延による経済への打撃だと思われがちだが、実際は消費増税が効いているのかもしれない。すでに米国では新型コロナ前のGDPを大きく上回っている。