黒田総裁が「これは政策転換ではない」と強調するワケ

ファンダメンタルズに即した市場の動きを政府・中央銀行が力で抑え受けようとしても、市場はうみがたまった段階で、一気におできをつぶしにかかる。

マーケットに長く携わった私は何度も経験してきたことだ。「市場の暴力」と称される時期が日銀にも近づいていると思われる。

これだけの借金を抱えた国の長期金利は本来0.5%のはずはないのである。とても0.5%で抑え込めるとは思えない。いったん0.5%の防衛ラインを崩されれば、一気に長期金利は上昇すると考えられる。

外国勢が国債売りの手を緩めず、市場利回りが0.5%に迫ってくると日銀は大量の債券指値オペを再開し、再度防衛戦を行わねばならなくなる。

前述したように、国債購入の代わり金として日銀当座預金を増加させるわけだから、これはすさまじい量的緩和である。

今ここで政策変更、すなわち「金融緩和をやめた」と宣言したとすると、この最後の防衛戦で「なんだ、金融緩和をやめたはずなのに、なぜ量的緩和をするのだ」との反論に答えようが無くなってしまう。

日銀にできることは「物価が上がりませんように」と祈るだけ

今回の変動許容幅拡大は「やむにやまれず行った」決定だと思うが、もし今後、物価が上昇してきた時、日銀は何ができるのだろうか。

もう何もできない。

物価上昇対応で日銀ができる金融引き締め策は全て出し終わった。ぬれ雑巾を絞り切った状態である。これ以上引き締めると債務超過に陥ってしまう。

最後の引き締め策を黒田日銀総裁は12月20日に使い切ってしまった。そして4月に任期満了を迎える。その結果、次の総裁は、なんの手段も持たずにインフレと戦う羽目になる。

できることと言ったら「物価が上がりませんように」と祈るだけだ。

日本銀行本店(写真=Wiiii/CC-BY-SA-3.0,2.5,2.0,1.0/Wikimedia Commons

だからこそ、前回の拙稿で、日銀財務が危機的状況にあることを最も熟知しているだろう雨宮副総裁は、「次期総裁職を引き受けない」と書いた。

12月に決まるのでは? と言われていた次期日銀総裁はいまだ決まっていない。1月にも決まらなければ、そのこと自体が円安再進行の引き金になる可能性もある。

「0.5%の最終防衛ライン」を破られたあとに起きること

今のようにファンダメンタルズから乖離かいりした長期金利では、いくら日銀が防衛ラインを敷いても、ヘッジファンドなどは執拗しつように攻めてくるだろう。

ましてや今後、日本の物価が上昇してくれば、その勢いは加速していくと思われる。万が一、日銀が防衛の手を緩めれば、ドイツの例を見るまでもなく簡単に2%くらいには吹きあがる。