「民間並み」自動的な引き上げに合理性はない
そもそも、公務員の給与・ボーナスの水準を「民間並み」とすることに合理性はあるのだろうか。
公務員の仕事は、直接、経済的に収益を生み出すわけではない。これまでは四半世紀にわたってデフレ経済が続き、物価もほとんど上がらなかったため、本格的な賃上げは起きなかった。そうした中で、公務員給与を「民間並み」にしておいても、人件費が膨大に増加することはなかった。
ところが、世はインフレである。物価の上昇が価格に転化され、それが企業収益に結びつくのならば、民間企業では、賃上げの原資はいずれ生まれてくる。しかし、インフレになったからといって収入が増えるわけではない公務員に給与増の原資は生まれてこない。
いやいや、消費税は価格が上昇すれば税収が増える、という意見もあるだろう。だが、前述の通り、消費税収の増加分を防衛費や人件費に回すことは基本的にはできない。
インフレの中で企業は人件費を増やしても利益が増えるとは限らない。消費が減って景気が悪化したりすれば、法人税収はむしろ減ってしまう。つまり、財政赤字が続く国家がインフレに直面している中では、自動的に公務員給与を引き上げていくことは難しい。
民間に人材が流れるのは「給与が安いから」ではない
こうした行き詰まりをきっかけに、公務員給与のあり方を抜本的に見直す契機にすべきではないか。「終身雇用」を前提とした「年功序列型賃金」を見直し、民間同様、一定年齢に達したら、給与減少もある人事体系にすることで、優秀な人材や重要なポストの給与を大きく引き上げることを検討すべきだろう。
経営コンサルティング会社マッキンゼーなど民間企業で長年働いた経験を持つ川本裕子人事院総裁はメディアとのインタビューで、各省庁で増える中途採用の増加を歓迎している。官庁に奉職した若手世代が大量に辞めて民間に行く一方で、一度辞めた官僚経験者が「出戻り」するケースなどが増えている。
そうした「出入り自由」の組織にするには民間と給与水準が同じというだけではなく、昇進や給与などの制度が民間並みである必要がある。
これまで霞が関は東大出身者を中心に、高学歴で優秀な人材を集めてきた。そして、そうした人材が民間に流出するようになったのは「官僚の給与が安いから」という説明が好んでなされる。だが実際には、旧態依然とした昇格制度や組織の高齢化、硬直的な働き方に幻滅する人が少なくない。意思に反してクビになることはなく、降格されることもほとんどない、毎年給与が増えていく公務員の人事制度が硬直化していることが優秀な若手に愛想を尽かされている。
民間では年功序列型賃金が崩れて久しい。民間の給与が上がるといっても全員が等しく賃上げされる時代は終わった。日本国の経済規模が右肩上がりに大きくなる時代が終わる中で、公務員給与も「民間並み」で一律に引き上げていく時代は終わったと考えるべきだろう。