日銀に残された選択肢は…

異次元緩和で日銀当座預金が膨れ上がってしまった以上、日銀は、伝統的な方法で短期金利を高め誘導することはできない。

日銀当座預金への付利金利(民間銀行が中央銀行の当座預金に預け入れている残高に対して適用される利子)を上げる方法しかない。現在、利上げを行っている世界の他の中央銀行も、その方法によっている。

たとえば、2022年10月末現在495兆円の日銀当座預金(現在はゼロ金利適用が242兆円。+0.1%適用が206兆円、△0.1%適用が24兆円)への付利金利を1%に上げたとしよう。民間銀行は1%以下で企業融資などしないだろう。

なにせ日銀に預金を置いておくだけで1%の金利がもらえるのだから、事務負担が多く、倒産リスクも日銀より高いと思われる(私はそう思わないが)企業に1%以下の融資など行わなくなるのだ。

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したがって日銀当座預金への付利金利を上げることによって市中の短期金利を高め誘導することができる。

しかし495兆円の日銀当座預金に1%の付利を行えば4.95兆円の支払い金利が発生する。2%の付利で、9.9兆円もの支払い金利増だ。今の年間1兆円から1兆5000億円の収入だと毎年巨額の純損失の発生だ。生じた評価損を純利益で穴埋めなどできないのだ。

デフレに逆戻りしない限り債務超過は解消できない

ちなみに私が参院議員の時に質問した際、若田部副総裁は、短期金利を引き上げる際には、「保有国債の受取利息も増えるので問題はない」と答弁された。

これまた嘘八百だ。中央銀行マンとしての矜持も学者としての矜持もないと思ったものだ。昔と違い、今はほとんどの保有国債は固定金利の長期国債。固定金利は満期まで受取利息は変わらないのだ。

556兆円の国債保有高のうち、547兆円が固定金利の長期債なのにどうして、短期金利が上がると、受取利息も増えると若田部副総裁は言い張るのか? 毎年満期が来る保有額の10%強分の保有国債しか高い金利に置き換わらない。

要は、日銀の債務超過は、世界が一直線にデフレに逆戻りしない限り、簡単には解消しないのだ。それどころかターボが効いたように大きくなる可能性が大なのだ。すべての日銀の国会答弁が苦し紛れもいいところだ。

これ以上の物価上昇に日銀は耐えられない

12月6日、日銀の黒田総裁は「豪州中央銀行は債務超過になったのに市場は問題にしなかった。だから日銀も心配ない」という趣旨の答弁をした。しかし今後起こりうる債務超過の程度は、豪州中央銀行と日銀では、けた外れに違う。