これに加えて、1990年代からはグローバル化による新興国との競争の激化や、ITなどの技術進歩が日本経済に大きな影響を与えてきました。また、女性の就業が増加し、労働力は多様化しました。

そのようななか、日本的雇用慣行のもとで標準的であった、夫が世帯主として働いて、妻が専業主婦で家を守るという性別役割分担が薄れています。1990年代半ばまでは、専業主婦世帯が共働き世帯をその数で上回っていましたが、その後は一貫して、共働き世帯数が専業主婦世帯数を上回る状況が続いています。2021年には専業主婦世帯の数566万に対して、共働き世帯の数は1247万と2倍以上になっています(図表3)。

社会構造が変わったのに、雇用はそのまま…

このように日本的雇用慣行の前提条件である持続的で高い経済成長と若い世代が多い人口構造が失われ、さらに雇用環境のトレンドが大きく変わったため、日本的雇用慣行の合理性は大きく低下しました。

雇用を考える際に重要な視点は「雇用は生産の派生需要である」ということです。これは、経済学に出てくる命題ですが、企業が人を雇うのは、生産やサービスを拡充するためであり、ボランティアで人を雇っているわけではありません。つまり、雇用は生産があってはじめて生まれるものなのです。それゆえ、雇用は生産の派生需要と言われます。

雇用は生産の派生需要なので、労働は企業の生産構造に左右されます。つまり、経済や社会構造が変われば、それに伴って雇用のあり方や労働市場も変わらざるをえません。

終身雇用や年功賃金といった日本的雇用慣行は、かつては優れたものでしたが、その前提条件が変わったため、その経済合理性が低下し、うまく機能しなくなっています。経済環境が変われば雇用や労働市場のあり方はそれに応じて変わる必要があるにもかかわらず、過去の特殊な雇用慣行が維持されているため、労働市場に多くの矛盾や問題が発生しています。

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「男性正社員」を想定した仕組みは通用しない

日本的雇用慣行が想定する労働者は、専業主婦付き男性正社員です。つまり、高齢者や女性、非正社員は想定されていません。

それゆえ、日本的雇用慣行を維持しようとすれば、高齢者の就業が難しいだけでなく、女性が働こうとすると仕事と家庭の両立が難しかったり、正社員と非正社員間で大きな格差が生じたり、さらには、正社員も終身雇用で守られることの代償として、長時間無限定就業や転勤などを受け入れざるをえなくなっています。

時代遅れの雇用形態に固執することによる弊害が出ているのです。古い体質の雇用慣行の維持、雇用の硬直化は日本の労働生産性を下げる要因にもなっています。