「次は豪華ホテルで泊まり、高級レストランで食事だ」
それでも西山さんは、「こんなに早く離婚だなんて、職場にも伝えたし、世間体が悪い……。自分が悪いのだから。自分さえ我慢すれば、夫はまた優しい夫に戻ってくれる」と思って耐え、必死に夫をなだめた。
さらに、夫は無職で収入がないにもかかわらず、週末に外食を提案したり、連休には「旅行へ行こう」と言い出したりした。もちろん支払いは西山さん。拒否しようものなら、夫から罵詈雑言を浴びせられるのがオチだとわかっているため、おとなしく従うしかない。一人ごきげんな夫は、旅行から帰ったそばから、「次はあの豪華ホテルに泊まりたい」「そこの高級レストランで食事をしたい」などと言い始めるため、西山さんは内心ヒヤヒヤだった。
「私がコツコツためてきたお金をだいぶ切り崩しましたね……。しかも夫は、車の運転でも、他の車の運転が気に入らないとものすごい暴言を吐き、店に入っても、少しでも店員の対応が気に入らないと、ひどく不機嫌になり、『帰る!』と言って帰ってしまい、家に帰ってからは私に暴言を吐くのが常でした。他にも、暑い、寒い、混雑している、誰かがぶつかってきたなどですぐに怒り出すので、あの頃は本当に外出が苦痛でしたね……」
限界
再婚して迎えた2回目のお正月明け。西山さんは初出勤し、帰宅してすぐに夕飯の支度をしていた夫の手伝いをしようとした。
すると夫は、手伝いの段取りが悪かったのか、虫の居所が悪かったのか、「邪魔すんな! 出ていけ!」と初めて西山さんの息子や、年末に帰省していた夫の(前妻との子供である)長女(30歳)の目の前で罵詈雑言を浴びせられた。
その日の夜。眠っていた西山さんは、夫に叩き起こされた。時計を見ると深夜3時を回っている。夫は西山さんが目を覚ますなり、怒鳴りつけた。
「いい加減にしてくれ! 早く別れてくれ! 出ていけ!」
西山さんは、明日も朝から仕事がある。それなのにこんな時間に叩き起こされ、がくぜんとした。夕飯前は息子や夫の娘の前でののしられ、ショックを受けていた。そして、「ここまで痛めつけられ、尊厳を奪われて、もう限界だな」と思った。
西山さんは、その後一睡もできないまま朝を迎え、仕事に穴を開けるわけにはいかなかったため、何とか出勤。しかし退勤後は急いで帰宅すると、すぐに荷物をまとめ、息子を連れて実家に帰った。夫は、西山さんがいなくなったことに関して、同居していた自分の母親には「(妻の)実家の両親が病気になったから、しばらく実家に帰る」と説明していた。
1年ほど前から西山さんは、ときどき両親には、「夫から暴言を吐かれている」と相談していた。その度に両親からは、「離婚しなさい」と言われていたが、ずっと踏み切れずにいたのだ。20時ごろ、息子と訪ねてきた西山さんを両親は、「こんなに寒い中、放り出されて……」と言って温かく迎えてくれた。