簡易課税なら「益税」の余地が残る

例えば、サービス業の仕入額は簡易課税だと50%として概算されます。

デザイナーやエンジニアなど課税仕入れとなる仕入れや経費がほとんどかからない事業者は、実際にかかった課税仕入れに基づく仕入消費税よりも、みなし仕入れ率による概算の仕入消費税の金額の方がずっと多くなります。その差額の分だけは消費税を払わなくていいので、全体の収入としては減ることには減るのですが、いくらかダメージはやわらぐでしょう。

つまり、簡易課税制度を選ぶと、益税の範囲はまだ残るのです。

仮に課税期間の課税売上高(税抜き)が1200万円のプログラマーがいたとします。その課税売り上げを獲得するための勉強代が100万円かかったとします。

本来の消費税の納付額の計算方法である「原則課税」の場合、売上消費税120万円(1200万円×10%)から仕入消費税10万円(100万円×10%)を差し引いた110万円の消費税を納付しなくてはなりません。しかし、簡易課税なら、控除する仕入消費税を、売上消費税120万円にサービス業の「みなし仕入率」50%をかけた60万円(120万円×50%)とすることができます。結果的に、消費税の納付額は60万円(120万円-60万円)になり、原則課税のときの110万円よりも大幅に負担を軽減できるのです。

「新規では免税事業者と取引しない」という声が多い

もちろん、インボイス制度が始まった後も免税事業者のままで居続けるという選択肢はあります。

吉澤大『インボイスと消費税の基本を学ぶ』(かんき出版)

たとえば、売り上げが消費税非課税の免税事業者(住宅用の大家さんなど)は、そもそも課税事業者になる必要はないでしょう。あるいは、子ども向けの学習塾や理容室、マッサージ店など、課税売り上げを100%消費者から得ている免税事業者も、買い手が仕入税額控除を受けるためにインボイスを求めてくることはまずないので、課税事業者になる必要はないでしょう。また特別なスキルがあって、ほかの事業者に代替されない自信がある方も、免税事業者のままでいる選択はあると思います。

しかし、それ以外のフリーランスとして独り立ちをして生きていきたいと考えている方には、やはり適格事業者となった上で簡易課税制度を選択することをお勧めしたいと思います。私は税理士としてインボイス導入後の対応について課税事業者の方と話す機会が多いですが、皆、「今まで長い付き合いがある取引先ならこのまま取引を続けるが、新規については免税事業者とは取引しない」と口を揃えるからです。