ユニフォームは子供自身に洗濯させるワケ

試合中に珍しい光景を目にした。

次戦に備えて球場外でウオーミングアップ中の他チームの小学生選手らが時折帽子をとり、棚原に金網越しに挨拶をしにやって来たこと。しかも彼らの視線が、有名なプロ野球選手を見るような憧れを宿していて、棚原はその度に「こんにちは」とにこやかに応じていた。

今年3月下旬のNHK総合テレビで放送されたドキュメンタリーで、棚原を軸にチームのユニークな取り組みが紹介されたからだろう。彼女は「自分のことは自分でする」をモットーに、小学1年生から練習や試合で使ったユニフォームは子供自身に洗濯させる。

週末の練習場所や時刻の確認も、子供が棚原に電話で行う場面などが放送された。年長者への挨拶や言葉遣いを、低学年から身につけさせるためだ。

撮影=森本真哉
大阪府予選第1回戦を大勝した山田西リトルウルフの小学6年生たちが、保護者らに大きな声でお礼の挨拶。

だが、母親に頼めばやってくれそうなことを、同世代にやらせている棚原に、他チームの子供たちが憧れる理由とは何か? おそらく80歳を超えてなお、内外野にゴロやフライを軽々と打ち分ける溌剌はつらつとした姿や、野球への尽きない情熱と愛情を、子供たちなりの感性で受けとめた末の敬意の表れなのだろう。少年たちのあのきらきらとした眼差しは、それ以外に説明がつかない。