「勝ちっ放しはないでしょう、安倍さん」

緊迫の戦闘シーンから一転、話は戦いの後へと展開する。

解散総選挙に敗れ敗軍の将となった私は、皇居で、あなたの親任式に、前総理として立ち会いました。

同じ党内での引継であれば談笑が絶えないであろう控え室は、勝者と敗者の二人だけが同室となれば、シーンと静まりかえって、気まずい沈黙だけが支配します。

その重苦しい雰囲気を最初に変えようとしたのは、安倍さんの方でした。

あなたは私のすぐ隣に歩み寄り、「お疲れ様でした」と明るい声で話しかけてこられたのです。

「野田さんは安定感がありましたよ」「あの『ねじれ国会』でよく頑張り抜きましたね」「自分は五年で返り咲きました。あなたにも、いずれそういう日がやって来ますよ」温かい言葉を次々と口にしながら、総選挙の敗北に打ちのめされたままの私をひたすらに慰め、励まそうとしてくれるのです。

その場は、あたかも、傷ついた人を癒やすカウンセリングルームのようでした。

「あなたは議場では『闘う政治家』でしたが、国会を離れ、ひとたび兜を脱ぐと、心優しい気遣いの人でもありました」と評した安倍氏のソフトな側面を、具体的なエピソードで浮かび上がらせるなど、全編を安倍氏への惜しみない賛辞と敬意で彩った。

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そしてクライマックスが、

再びこの議場で、あなたと、言葉と言葉、魂と魂をぶつけ合い、火花散るような真剣勝負を戦いたかった。

勝ちっ放しはないでしょう、安倍さん。

というセリフだ。

悪しざまに、野次を入れ、「悪夢の民主党」などとあげつらった安倍氏の過去はすっぱりと水に流し、自らの失言の過ちを素直に謝罪、堂々と負けを認める。野田氏のこんな「武士道」的な潔さに惹かれた人は少なくなかったろう。

「宿敵に塩を送った」野田氏の器の大きさを感じさせたわけだが、この彼の手法は、これからの日本の政治のコミュニケーションのあり方について、大きな示唆を含んでいるように感じる。野田氏は、演説後のテレビ出演で、「政党間の対立が激しく、それが国民の分断につながってしまう。時には一致点を見出す合意形成のための努力をもっとしなければいけないのではと思う」と語っている。