改めて認識されつつある「マスメディアの役割」

しかも、インターネット上においては、ユーザーの過去の行動が記録されており、その分析結果に基づいて、よりその人が見たいと思う情報、具体的にいえばクリックしてもらえる、飛ばさずに見てもらえると予想できる情報が瞬時に表示される。

個人にとっては自分が見たい情報だけを見せてくれるメディアは有用であり、広告収入を得るという観点からいえば、ネット事業者がその人が見たい情報だけを見せるのは「正解」である。

しかし、皆が自分の意見に沿った情報、自分の生活に関連した情報しか見なくなった世界においては、一般の人々が選挙などを通じて政治に参加し、議会はもちろん、有権者の日常会話のレベルでも、異なる意見を持つ人々同士が議論を行うことでより良い結論を求めていく民主主義という仕組みを維持することは難しくなる。

稲増一憲『マスメディアとは何か 「影響力」の正体』(中公新書)

選挙や議会に頼った古臭い民主主義などなくとも、「インターネット上における人々の行動や意見をビッグデータとして集め、AIで分析して意思決定を行えばいい」などといっても、人々の行動や意見はその人が見ている情報の影響を受ける以上、人々を取り巻く情報の偏りが持つ悪影響から逃れられるわけではない。

このように、人々がゲートキーパーとしてのマスメディアが選ぶ情報ではなく、自分が見たい情報を見ていればそれで上手くいくわけではないとわかってきたことによって、「人々が見るべきと考える情報をなるべく多くの人に等しく届ける」というマスメディアの役割が社会において、重要だということが明らかになったのである。

テレビニュースや新聞記事はある程度信頼されている

SNSなどではしばしば「マスゴミ」に対する激しい批判が見られるが、上記のような機能を持つマスメディアは、少なくとも日本では、ある程度信頼されている。

たとえば、著者が2015年に三浦麻子・安野智子、NHK放送文化研究所と共に行った調査においては、テレビニュースや新聞記事を「とても信頼している」あるいは「まあ信頼している」とした回答者は7割を超えていた。なお、選択肢はこれ以外の選択肢は「どちらともいえない」「あまり信頼していない」「信頼していない」であり、日本人が選びやすいとされる中間的な「どちらともいえない」という選択肢があるにもかかわらず、多くの回答者はテレビや新聞への信頼を表明していたのである。

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また、「テレビ・新聞があるから国民の声が政治に反映される」という質問に対して、「そう思う」あるいは「どちらかといえばそう思う」という回答した者の割合は57.0%と半数を超えていた。このように日本の社会調査においてマスメディアに対する高い信頼が示される傾向は、その後もたびたび示されている。