違反の有無を左右する「現場の判断」

この点を警察関係者に尋ねると、以下のように返答された。「取り締まりは、現場の判断に基づいて行われ、状況によって対応が異なる。仮に歩行者が渡らず、手振りで車両の進行を促したように見えても、ドライバーの勘違いという場合もある。一概にはいえない」。

それならドライバーがサイドウインドーを開いて「どうぞ渡ってください」と声を掛けて、歩行者が「いいえ、私は渡りませんから先に行ってください」と返答した場合はどうなるのか。

「この場合はドライバーと歩行者の間で、明確な意思の疎通が図られている。車両は横断歩道の直前で停車した上で、歩行者の指示を受けて改めて発進させた。従って道路交通法の違反にはならない」

このほかにも「現場の判断」はあるのか。

「車両が停止すべきか否かは、歩行者と車両の距離によっても変わる。例えば車両から見て横断歩道の右側(反対車線側)から歩行者が渡り始めた場合、道幅が広いと、自車が通行する左車線へ歩いて来るまでに時間を要する。従って右車線を渡り始めた段階では、横断歩道の手前で停車しなくても、歩行者の通行を妨げたことにならない場合もある。これが現場の判断だ。

道路交通法に違反するか否かは、横断歩道の長さや道路の形状、歩行者と車両の位置関係、さらに先に話をしたドライバーと歩行者の意思疎通など、いろいろな事柄に基づいて判断される」

信号機のない横断歩道が抱える問題の本質

この警察関係者のコメントは、取り締まりに限らず、信号機のない横断歩道が抱える問題点の本質を突いている。歩行者とドライバーという、現場にいる当事者の判断に委ねるところが大きいことだ。

ドライバーは、歩行者が横断歩道の近くにいる時、運転しながら歩行者が渡るか否か、横断歩道の直前で停車すべきか否かを瞬時に判断せねばならない。横断歩道の脇に立って、スマートフォンを使っている歩行者もいるのだ。

そして先のコメントにあった通り、歩行者が横断歩道の反対車線側(右側)から渡り始めて、自車が通行する左車線へ歩いてくるまでに時間を要する時など、停車する必要があるとは限らない。

そうなると信号機のない横断歩道は、ドライバーの判断が難しい場面になる。横断歩道を渡ろうとしている歩行者がいる時は、もちろん停車せねばならないが、ドライバーの判断ミスも発生しやすい。そのために事故に至る可能性も高いのだ。

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