「五輪は儲かるイベント」となっていった

【池上】そこへ実業家出身のピーター・ユベロス氏が大会組織委員長に就任し、大胆な改革を行いました。例えば協賛企業に五輪マークの使用を独占的に認める一方、テレビ局からは高い放映権料を獲得。結果、ロサンゼルス大会は2億ドル超の黒字となったのです。多額の赤字から一転、「五輪は儲かるイベント」となり、開催地に名乗りを上げる地域が殺到するようになりました。

【増田】本来、五輪にかかわるということだけでも大変名誉なことですし、多くの人からの尊敬や称賛も得られるはず。にもかかわらず、なぜ賄賂のような金銭を要求するのか、理解に苦しみます。

【池上】全くその通りですね。高橋容疑者がもともと所属していた電通などの広告代理店や、その後、独立後に開業したコンサルタント業というのは、基本的には仲介や口利きが職務の一部です。それゆえに、今回の賄賂も「スポンサー企業に認定されるまでの仲介をするのだから」という認識で、得て当然の対価だと思っていた可能性は否定できないでしょう。ただし五輪組織委員会に所属していた以上は、大会特別措置法によって「みなし公務員」とされていますから、対価を得れば、それは収賄罪に問われます。

なぜフランス当局は竹田恒和氏から事情を聞いたのか

【増田】一方で、IOC(国際オリンピック委員会)の委員らに対しては、招致の段階からいわゆる「接待合戦」のようなことが行われていると聞きます。

【池上】1998年に開催された長野冬季五輪の際にも、海外の委員に莫大な資金を提供したり、来日時に下にも置かぬ接待をしたりして、開催地を勝ち取ったと言われています。2000年に田中康夫さんが長野県知事に就任した際、その全貌を知るべく「招致当時の帳簿を全部出すように」と命じましたが、すべて破棄されていたといいます。

「みなし公務員」の話で言えば、日本では贈収賄は公務員とみなし公務員にしか適用されませんが、フランスではそうした身分にかかわらず、贈収賄が成立する法律になっているそうです。ここに引っ掛かったのが、招致委員会の理事長だった竹田恒和氏です。

フランス当局は、東京五輪の招致委員会がシンガポールのコンサルタント会社に支払った約2億3000万円が、開催都市決定の投票権を持つIOC委員側への贈賄に使われた疑いがあるとして捜査していました。そこで、招致委員会の理事長として、コンサル会社との契約書にサインしていた竹田氏が捜査対象になったわけです。さらに日本での組織委員会を巡る贈収賄問題に関連して、東京地検特捜部は竹田氏にも任意で事情聴取を行ったと報じられています。

【増田】フランスのほうが、こうした口利きには厳しい姿勢を取っているんですね。