出世競争で女性部下に負ける男性たち
――妻に昇進で追い抜かれたという話がありましたが、女性に出世競争で負ける男性は増えているのでしょうか?
入社年次の近い女性の先輩や、女性の同期、さらには自分が育てた女性の部下に追い抜かれるケースを取材でよく目にします。これは女性自身の努力もありますが、第2次安倍内閣の頃から準備されてきた「女性活躍推進法」の影響も大きいといえます。
女性活躍推進法は、女性の管理職の数値目標などを盛り込んだ「行動計画」策定などを事業主に義務付けたもので、2016年に全面施行された法律です。背景には、女性の管理職を2020年までに30%にしようという政府目標がありました。この目標は20年12月に閣議決定された「第5次男女共同参画基本計画」において、「20年代の可能な限り早期」の実現に達成時期が先送りされています。
この数値目標自体は2003年の小泉内閣がすでに掲げていたのですが、実行すべきことととして企業など雇用主が認識し始めたのは、女性活躍推進法施行がきっかけだと私はみています。
しかし、そうしたボジティブ・アクション(積極的差別是正措置)は、一時的な女性優遇措置であるということの説明をおろそかにする会社も多く、昇進を目指して地道に成果を上げてきた男性社員としては当然納得がいかず、モチベーションが下がり、自信を失ってしまいます。
そもそも、女性活躍推進法自体、10年間の時限立法なのですが、社会全体としてそのことがあまり意識されていません。過剰な女性優遇が男性を追い込んでしまう可能性があります。
「妻が管理職になるのを応援しています」と語っていたが...
――有能な妻に嫉妬し、そのストレスから子供に手を上げてしまったイクメンパパのエピソードも印象的でした。
仕事を頑張る「デキる男」と積極的に育児に関わる「イクメン」の両方を目指していた、飲食店勤務のツトムさん(仮名)の事例を取り上げました。彼は「妻が管理職になるのを応援しています」と言っていたのですが、3つ年下の妻が37歳で課長になった時に「自分よりも優秀で、職場の上司からも評価されている妻への嫉妬心が湧いてきた」と本音を語ってくれました。
その後、ご自身も39歳の時に課長に就任していたのですが、自分が期待しているよりも評価を受けられない現状に業を煮やし、やり場のない気持ちは4歳の息子への英才教育に向けられます。そして、外で遊ぶのが好きな息子が勉強に集中しなかった時、思わずわが子に一度だけ手を上げてしまうのです。そのとき、息子さんに言われた言葉が「パパ、お仕事しんどいの。僕、手伝おうか」だったと。
息子さんの言葉を受けて、「出世も見込めない、男として恥ずかしい自分の心の穴をイクメンになることで埋めようとしていたことに気づかされた」と打ち明けてくれました。お子さんに手を上げることを決して擁護はできませんが、自己否定されたと思い込んでしまうほど、出世の重圧は大きいのだと実感しましたね。