「具合が悪くても休めない社会」が戻ってくる

「全数把握廃止」の問題点は前回記事<悪夢のような負担が病院にのしかかる…現役医師がコロナ患者の「全数把握廃止」を深く懸念するワケ>に記したので参照されたいが、この入院給付金の支払い対象になるかの判断は、医療機関が行う届出の対象とするか否かの判断に大きく依存するものとならざるを得ない。つまり医療機関で「入院を要する可能性あるいは重症化リスクがない」と判断されてしまった人は保険金給付の対象からも外されることになるわけだ。

この選別にかかる業務負担と精神的ストレスは、今以上に医療機関を圧迫することになるのは間違いない。一番判断に困るのは、グレーゾーンの人の扱いだ。例えば「高血圧症」。すでに投薬加療されている人は「入院を要する可能性あるいは重症化リスクあり」の範疇に入ることになろうが、「過去に健診にて指摘され、要加療と判定されたまま放置していた」などという人は少なくない。

そのような人を対象外としていた後に、後日、「みなし入院」に対する保険金給付が認められなかったとの苦情が入らないとも限らない。そういう医療とは直接関係ない苦情や金銭トラブルに、医療現場が矢面に立たされることも十分あり得るのだ。

そして対象外とされた人は、具合が悪かろうがゆっくり休んでもいられず、少しでも収入を確保すべく一日も早く職場復帰せざるを得なくなるのである。

今回の「ウィズコロナ」戦略は、「医療機関の負担を軽減するため」「社会経済活動を円滑に回すため」との政府の思惑とは裏腹に、むしろ医療機関と社会経済活動に大きな混乱を巻き起こすことになるだろう。それだけでなく、国民のさらなる分断をも引き起こすことになるだろう。

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感染制御と社会経済活動の両立とは口ばかり

政府や経済団体の推し進めようとしている「ウィズコロナ」は、いわゆる真の「ウイルスとの共存」とはほど遠い考え方だ。感染制御と社会経済活動の両立とは口ばかり。新型コロナウイルスが私たちにもたらしてくれた唯一の恩恵ともいえる「少しでも具合が悪い人は職場に来させず休ませよう」との意識を捨てさせ、再びコロナ禍以前の「具合が悪くてもゆっくり休むことさえ許さない社会」へと回帰させようとするものだ。

真に「ウィズコロナ」と言うのであれば、感染者には収入を気にせずゆっくりと十分な休息をとらせる政策こそが最重要だ。それは感染制御の観点からも理にかなっている。そしてそれこそが社会経済活動を円滑に回すことにもつながるのだ。これを真逆に推し進めようとする現内閣は致命的な過ちを犯そうとしていると言わざるを得ない。

このまま進めば、コロナ禍以前に冬になると繰り返しテレビから流れていた「カゼでも絶対に休めないあなたへ」との総合感冒薬CMのキャッチコピー、最近はすっかり目にしなくなったが、また似たようなCMが流れてくる社会に逆戻りしてしまうかもしれない。

「カゼ引くなんて自己管理がなっていないんじゃないか」
「カゼくらいで休まれると迷惑なんだよな」
「カゼ引いてお休みをいただき本当に申し訳ございませんでした」

こういう歪んだ社会への回帰は、「ウイルスとの共存」どころか“ウイルスの思う壺”だと思うのだが。

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