「感染者を増やさない」はどこまで本気なのか
「ウイルスとうまく付き合っていく」ためには、まず何よりウイルスによる犠牲者を増やしてはならない。それに異論のある人はいないはずだ。その犠牲者を増やさないためには、感染者を増やさないことが重要であることは言うまでもない。感染者が増えればそれにつれて重症者も増え、医療需要を増大させてしまうからだ。
当然のことながら「過度な感染対策によって新型コロナウイルス以外の原因による犠牲者を増やしてはならない」という意見も重要である。救急車の受け入れ困難事例の急増、あるいは行き過ぎた行動制限策がもたらす経済的損失、倒産そして自殺者……。感染者を増やさぬようにしながら、いかにこれらの“ウイルス以外による犠牲者”を生じさせないようにするか、それが政治の役割であることも言うまでもない。
しかしこれらの認識を踏まえた上で、今回の岸田内閣の方針転換を見てみると、この“感染者を増やさぬようにしながら”という部分については、政府としての責任を放棄したようにしか思えない。過度な感染対策を止めるならまだしも、感染防止よりも社会経済活動を回すことを最優先に、熟議なきまま、なし崩し的に国民に感染拡大リスクを許容させるものであるからだ。
またもや「国民へのお願い」に頼るなら絶望的だ
その最たるものが、“検査陽性者の自宅療養期間の短縮”だ。たしかに第7波以降、早い人では一両日中に社会復帰できてしまいそうな体調の患者さんも少なくない。寝込むのは最初の2~3日のみで、残りの1週間は家でブラブラという人もいる。
だがその“ヒマな期間”は、決して無駄な時間ではない。感染者の安静療養のためであることはもちろんだが、他人に感染させないために設けられたものでもあるのだ。
なにより専門家もそして今回の方針転換を決めた政府でさえ、発症後7日目ではまだ感染性を有している可能性を認めている。政府は「10日間が経過するまでは、感染リスクが残存することから、検温など自身による健康状態の確認や、高齢者等ハイリスク者との接触、ハイリスク施設への不要不急の訪問、感染リスクの高い場所の利用や会食等を避けること、マスクを着用すること等、自主的な感染予防行動の徹底をお願いする」としているが、こんな「お願い」で感染拡大を防げると本当に考えているならば絶望的だ。