ひとりじゃない
中でも、母のトンチンカンな行動を、息子が笑いに変えてくれるのは何よりも救いだった。
小学校6年生になった息子は、優しく正義感にあふれ、運動神経抜群。よくしゃべりよく笑い、学校ではムードメーカー。一方で寂しがり屋な一面もあり、ママも亡くなった祖父のことも大好きだった。
母親がシャワーを浴びた後、全裸でうろうろしているのを見るなり息子は、「ばあば、服着なよ」と大笑いし、母親もつられて一緒に笑ったり、早瀬さんが息子と2人で外出して帰宅した時、母親が明かりも付けずに真っ暗な部屋からうっすら戸を開けて玄関を眺めていると、「ばあば何やってるの?! びっくりしたー!」と大笑いし、母親もつられて一緒に笑うなど、早瀬家に明るい笑いをもたらしてくれる。
また、週1か2週に1度来てくれる兄が愚痴を聞いてくれることも、ケアマネジャーが相談に乗ってくれることもストレス解消になった。
6月からは、デイサービスを週に3回に増やすことに。母親は、デイサービスが無い日も行こうと準備していることが増えたうえ、デイサービスが無い日は家にこもって誰とも話さずにぼーっとテレビを見ているだけ。「ならば、1回増やして少しでも外出させたほうが母のためではないか」と早瀬さんは考えたのだ。
増やしてみると、母親の調子が良いため、そのまま継続。
「母は、デイサービスに行けば、利用者と話をしたり、歩行運動したり、マッサージを受けたり、洗濯物を畳んだり、味噌汁やパンを作るなどのお手伝いができるので、デイサービスを仕事だと思って行っています」
早瀬さんは、5月には習い事を始め、8月には母親をショートステイに預け、息子と旅行へ出かけてみた。
「介護は1人ではできません。1人でやろうとせず、必ず誰かに助けてもらってください。時にはイライラや愚痴をこぼし、誰かに聞いてもらってください。わからないことや不安なことがあれば、先輩介護者の話を聞きに行って、アドバイスをもらったり、自分の悩みを相談してみたりすることも大切だと思います」
早瀬さん家の隣には、認知症の老婆とその息子、そしてその嫁が暮らしているが、嫁が老婆を怒鳴りつける声がよく聞こえてくるという。早瀬さんはイライラした時、それが反面教師となり、「あんなふうにならないように気をつけなければ」といつも自分に言い聞かせている。
「幸い母はまだ、私が作った料理を『おいしい』と言って食べてくれますし、私は母が朝起きてきてくれるだけでホッとします。トンチンカンでもできることはやってもらい、デイサービスに行ってもらって、なるべく母の認知症を遅らせられたらと思います」
早瀬さんの母親は現在84歳、要介護1。息子は11歳だ。まだまだ早瀬さんのダブルケアは続くが、早瀬さんはひとりじゃない。