だれかに頼ることをしない男性たち

いずれかの被害経験ありは、女性25.9%、男性18.4%。女性の4人に1人に対し、男性でも5人に1人が該当している。DVはもはや、女性被害者のみの文脈では語れない。

同調査では、こうした配偶者からの行為を誰かに相談したかどうかも聞いている。「相談した」男性は31.5%で、女性の53.7%より20ポイント以上少ない。

僕自身、警察や行政、民間の夫婦カウンセラーなどに頼ったことはない。友人に愚痴をこぼすこともない。父母にも黙っていることが多い。

他方、妻は自分の母親には全部の報告を入れ、僕の母にもしょっちゅう僕を非難するLINEを送っている。救急車事件からしばらくの間は、警察ともやりとりしていた。地元の自治体窓口にも話をしに行ったと、彼女が自ら明かしたこともある。僕の体験に即しても、男性被害者のほうが誰にも相談しにくいと言える。

さらに興味を引いたのが、配偶者と別れなかった理由だ。被害を受けた時、「相手と別れたい(別れよう)と思ったが、別れなかった」212人に理由を聞いた(複数回答)。男女共に最多の「子供のことを考えた」に続き、男性では約27%が「相手が変わってくれるかもしれないと思ったから」を選択している。女性でも約16%あった。

写真=iStock.com/solidcolours
※写真はイメージです

「この人はもうダメ」とあっさり別れる人もいるが…

暴力を振るう相手に「変わってくれるかもしれない」との期待を抱くのは、実にけなげ。やはり多くの夫婦は、愛情があって関係が始まっているからだろう。もちろん、そんな相手でも「ああ、この人はもうダメ」とあっさり三行半みくだりはんを突きつけられる人もいる。

かたや、好きになった相手との関係を長く続けたいと望む、ウェットな気質の人もいる。僕は、間違いなく後者だ。「運命の人」として選んだ妻との関係は、子どもを抜きにしても、そうそう簡単に断ち切れない。

僕ら夫婦だって、平和な時代はあった。10年に出会ってから、19年5月の借金問題の発覚まで、僕は家庭を持った幸せを感じていた。妻が借金に手を出したのは、16年6月に次女を出産してから。その頃までは、彼女もまずまず心穏やかだったろう。

どうやったら「暴力沼」から抜け出せるのか

こう振り返ると、僕は16年5月頃までの夫婦関係に戻したくなる。妻をDV加害者にしているのは、僕の存在に他ならない。だとすれば、この「暴力沼」から抜け出すヒントを得ねば。こういう考えのもと、リサーチに乗り出した。

人選に苦労していると、担当編集者からNPO法人ステップの栗原加代美理事長の情報を得た。早速、サイトをチェックする。ステップは11年からDV・ストーカー加害者更生プログラムを実施。加害者は毎週2時間ずつ、全52回のプログラムに参加し、「不健全な価値観や考え方に気づき、思考を変えていく」。「加害者の変化の事例」を見ると、効果を上げているようだ。