不在と思い込んでいたら…「嫌がらせなの?」

冬晴れのこの日、僕は妻が不在と判断。日没までの時間を考えると、ベランダに出した洗濯物の全部は乾かないと見切りをつけ、半分ほどを乾燥させ始めた。ところが、彼女はウオークインクローゼット内の机で、静かに仕事をしていた。痛恨のミスだった。「一時停止」ボタンを押す前に気づかれる。彼女は戦闘態勢十分で絡んできた。

「こんな天気のよい日にやめてもらえる? 電気代を私が払っているからって、嫌がらせなの?」

僕の理由も聞かず、全否定できた。

「このままだと全部は乾かないよ。生乾きで臭うと嫌でしょ」

こう反論したが、「そんな風にならない」。そして、「そもそも、お前が電気代を払っていないのがおかしい」と、「お前」呼ばわりしてきた。

「夫婦でお前はおかしいでしょ。その呼び方こそ、やめてもらえる?」

こう言い返した僕に、妻は逆上し、怒りのボルテージを上げた。そして、先の罵倒や殴打の展開となる。

それにしても改めて文章に記すと、夫婦喧嘩の原因は何とも程度が低い。テレビ台の導入やら乾燥機能の使用やらと、恥ずかしい限りだ。しかし、これは一つの大切なファクト。実は夫婦喧嘩にとどまらず、夫婦間のDVさえも、日常生活の些細なことが起点となると後に学ぶ機会を得た。

「妻から夫へのDV」は増え続けている

我が家で起きている妻から夫への暴力という構図は、決して珍しくない。家庭内での暴力、ドメスティック・バイオレンス(DV)と聞くと、反射的に夫から妻だと想像しないだろうか? それは一昔前の話だ。

警察庁が22年3月に発表した「令和3年におけるストーカー事案及び配偶者からの暴力事案等への対応状況について」を引用する。全国の警察が同年受理した配偶者などパートナーからのDV相談は、前年比0.5%増の8万3042件。03年から18年連続で増加している。

この発表では、被害者の性別データもある。21年だと男性の相談割合が25.2%、女性が74.8%。実に被害者の4人に1人が男性だ。過去5年間で比較すると、17年の17.2%から右肩上がりが続いている。

これらの相談は、内縁関係や「生活の本拠を共にする交際をする関係」(同棲関係など)も含む。今度はこの書籍が扱っている婚姻関係に絞った統計を見てみよう。

内閣府男女共同参画局が21年3月に発表した「男女間における暴力に関する調査」を参照する。結婚したことのある2591人に、身体的暴行、心理的攻撃(暴言や長期間の無視など)、経済的圧迫(生活費を渡さないなど)、性的強要の4行為を配偶者からされたことがないかを聞いた。