パートナーからの暴力にはどう対処すればいいのか。『妻が怖くて仕方ない DV、借金、教育方針、現代夫婦の沼に迫る』(ポプラ社)で妻からの暴力被害をつづったジャーナリストの富岡悠希さんは、「僕は離婚せず、お互いに変わる方法を模索している。その過程で気づいたのは、DV被害者の僕は同時に加害者でもあったという事実だった」という――。

※本稿は、富岡悠希『妻が怖くて仕方ない DV、借金、教育方針、現代夫婦の沼に迫る』(ポプラ社)の一部を再編集したものです。

悲しみに暮れるカップル
写真=iStock.com/Tero Vesalainen
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「この野郎」と叫びながら殴ってくる

「賠償金を払ってもらうからね。あんたのことは、みんなで憎んでやるからね。地獄の果てまで、本当に。あんたを地獄に送り込むまで恨んでやるからな」
「あんたがいることで、幸せになれるか考えてください。このやろー。そう思っているのが、自分の支えなのだろうが、誰も思っていないんだよ。あんたについていく人なんていないんだよ」
「完全に間違ったよ、こんな人、もう。くっそ、もう。本当にこの人はダメだ」

2021年2月のある平日午後、僕は妻・美和から、罵声を浴びせられていた。怒髪天を突くような鬼の形相で、口調も普段の3倍速。時に床をドンドン踏みならし、身ぶり手ぶりが激しい。

人をおとしめる言葉を連発する様子は、怒りの精霊に捕らわれたか、魔物に憑依されたかのよう。こうした妻の姿を見るのは初めてではない。しかし、対処法を身に付けられていない僕は、迫力に圧倒されて立ちすくむ。

するとさらに怒りを増長させた妻が、「この野郎」と叫びながら向かってきた。そして、グーパンチを浴びせてくる。反射的に僕は半身になって頭部をガードした。妻のこぶしが無防備となった肩や背中に当たる。「痛っ、痛っ」。数秒間、サンドバッグ状態で堪える。彼女の息が上がったタイミングで、やっと逃げることができた。

過去に救急車で運ばれ、今回の原因は…

僕が上梓した『妻が怖くて仕方ない DV、借金、教育方針、現代夫婦の沼に迫る』(ポプラ社)の「はじめに」で、妻からの暴力で左肩を脱臼して運ばれた「救急車事件」を記した。20年9月のことだ。搬送されるほどの大ケガは1回だが、コロナ禍では単なる口論で済まない夫婦喧嘩が、ふた月に1回ほど発生するようになる。うち約半分で、妻は暴力行為に走った。救急車事件を経験し、妻は以前より簡単に手を出すようになった。

この日の原因も実に些細なことだ。救急車事件はテレビ台。この21年2月は、僕がドラム式洗濯乾燥機の乾燥機能を使ったことだった。ちょっと大げさだが、読者の記憶に残りやすいように「洗濯乾燥事件」と名付ける。

2019年5月に彼女が作った借金800万円を僕が肩代わりしてからしばらくして、我が家の光熱費は妻が出すようになった。彼女はこまめに電気を消せないし、衣食住の共同生活費の負担割合は余りに僕に偏っている。いくどかの話し合いの末、彼女も一度は納得した。

だが、給料を全部好きにしたい彼女は、内心は面白くない。そこで主張してきたのが、「乾燥は夜間に1日1回」という謎ルール。しかし、洗濯物をほぼケアする僕は、生乾きだと困る。そのため妻の不在時を見計らい、こっそり昼間も乾燥機能を使った。