無謀な賃上げで失業者を生んだ前政権の失策

韓国では人口減少も深刻だ。2021年、韓国の合計特殊出生率は0.81に低下した。世界銀行によると韓国の出生率は世界最低である。2021年に韓国の人口は減少に転じた。今後、人口減少ペースは加速するだろう。存続が困難になる自治体が急速に増えるなど、雇用・所得環境は一段と不安定化する可能性が高い。

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本来であれば韓国政府は労働市場の流動性を高め、起業支援を強化するなどして、人々が中長期的な目線で新しい取り組みを能動的に進めようとする環境を整備しなければならない。

しかし、文前政権は経済成長率を大きく上回る賃上げを行った。その結果として中小企業などの経営体力が奪われた。急速な賃上げの結果、韓国では雇用を減らす企業が増えた。尹錫悦(ユン・ソンニョル)政権も人々の先行き期待を高める政策を打ち出すことはできていない。その状況下、国民が将来に希望をもち、結婚し、子供を育てつつ自己実現を目指すことは容易ではない。

国民の無力感を解消する政策を打ち出せていない

また、韓国では大手企業や物流業界などで労使の対立が激化している。例えば、現代自動車の労働組合は業績状況にかかわらず賃上げを求め、要求が受け入れられない場合はストライキを決行するという姿勢をとり続けていた。ストは結果的に回避したが、韓国の企業経営者が従順な労働力を確保して事業運営の効率性を高めるためには、海外に生産拠点を移さざるを得ない。

すでに韓国から脱出する海外の企業は増えている。その結果として、若年層の就業機会が一段と少なくなるなど雇用・所得環境の悪化懸念は高まるだろう。

その状況下、韓国の政治は就業機会の創出など人々の先行き懸念や無力感を解消するための有効な手立てを打ち出せていない。これまで韓国企業にとって重要顧客だった中国企業は、競争上の脅威に変わり始めた。不動産バブル崩壊などによって中国経済の成長率も低下している。韓国が中国の需要を取り込んで経済と社会の安定を目指すことは一段と難しくなるだろう。