告発者たちの願い
ナサールの悪夢には、まだまだ世の人には理解されないことが残っている。
こんな性虐待を続けてどうして何十年もこの医者は捕まらなかったのか。どうやってこんな巧妙で獰猛な性犯罪者になったのか。親はどうして気づかなかったのか。なぜ、あんなに大勢の子どもたちが黙っていたのか。虐待されていることをわかっていて誰かに話した子どもたちは少なくなかったのに、なぜ対応するべき関係者が無視したのか。この男を止められた機会は何度もあったではないか。こうした若いアスリートや親たちに対する保護はどうなっていたのか。女の子たちを見捨ててこの怪物をのさばらせたのは誰か、どこの組織なのか。
アビゲイル・ぺスタがまとめた証言集『THE GIRLS』は、そんな、人々がくり返し口にする疑問に答えてくれる。登場する人たち、多くはこのミシガン州にある人間関係の濃い地域でラリー・ナサールとともに育ってきた人たちの、普通ならとても口に出せないようなプライバシーにかかわる体験談や当事者ならではの鋭い視線があればこそ、この事件の全容が明らかにできる。そしてかならず、こんな悪い夢としか思えないようなことを二度と起こさないための力になるだろう。
それが、ここで体験を明らかにしたみんなの願いだ。
――アビゲイル・ペスタの取材に応えて