「怪我をした人間は役立たず」練習環境は苛烈だった
私たちは歳の近い姉妹で1年9カ月しかちがわない。一緒に体操をやりながら大きくなった。両親は私たちに夢を追わせてくれた。二人ともカジノのシーザーズ・パレスのダイスディーラーで、母は私たちを体育館まで送ると、そこでひと眠りしてから出勤していた。
10代の前半で、二人ともエリートレベルにのぼりつめた。一緒に全米チームに進むと、トレーニングが心を病むほど苛烈になっていった。全米チームの公式トレーニングセンター、テキサスのカーロイ・ランチでトレーニングする時間が多くなった。私たちはそこに行くのが怖くてたまらなかった。
コーチの指導は徹頭徹尾否定的で、暴言と心を傷つけられることばかりだった。絶えず脅されているようで、恐ろしい、力と支配がすべての環境だった。体育館に足を踏み入れた瞬間からみんなロボットになる。疲れてもうやれない、とはとても言えなかった。人間であることが許されなかったのだ。感情のスイッチもオフにした。怪我をしようものなら、役立たずのようにコーチから扱われる。だからみんな怪我を隠して練習した。薬を飲んで痛みをやりすごしながら。
唯一人間に戻れる「安心できる」場所だった
疲れ果てた女の子たちが、スキルの練習をしながら頭から床に突っこみそうになるのを、私たちは見た。それでもそのスキルを何度も何度もくり返せと言われるのだ。あれは危険だった。疲労の限界を超えてまでやらせるのは。誰もものを言うことができなかった。口に出すということは、コーチを怒らせて評価が下がることだった。本当に、信じられないような環境だった。アリー・レイズマンがいつか、石鹸をくださいって言うのも怖かったと言っていた。
親はカーロイ・ランチに入ることが許されなかった。でもラリー・ナサールがいてくれた。ランチでトレーニングキャンプがあると、いつもそばに待機してくれて最高の友だちになった。みんな、ラリーのところへ行って人間に戻ることができた。ラリーのいたトレーニングルームは、安心できる場所だった。ドアを閉めて、困っていることやらを打ち明けた。話しても告げ口されたりする心配はなかったから。そうやってラリーは私たちをとりこんだのだ。