高速鉄道が成功を収める地理的条件

世界初の長距離高速鉄道として1964年に開業した東海道新幹線は営業面でも成功を収め、現在でもJR東海の圧倒的主力路線として活躍中である。しかし、この成功の背景には、ある「地理的な条件」が存在していたはずだ。

東京―新大阪間の路線距離は515km。この程度の距離で、しかも同じ本州に位置する日本の首都と当時の第2の都市を結んだことが、東海道新幹線の成功の理由だろう。そう考えれば、台北市・南港駅から高雄市・左営駅の345kmを約90分で結ぶ台湾高速鉄道も成功の条件を満たしている。実際に集客力も高いようだ。

一方で、バンコク―チェンマイ間を結ぶタイの高速鉄道は前述の通り、日本が開発援助のパートナーとなったが、契約はしたもののプロジェクトは本格始動していない。現地では、この高速鉄道の採算性を問題視する声もあるという。670kmという距離に問題があるのだろうか。

東海道・山陽新幹線で東京駅から670kmというと、岡山のあたり。高速鉄道の限界ギリギリかもしれない。行き先が広島なら、多くの人が飛行機を利用するだろう。また、ニュージーランドのように首都ウェリントンと第2の都市クライストチャーチが南北の島に分かれている国も、高速鉄道建設には向いていないはずだ。

クルマ社会では「降りた後の移動手段」も重要

さらに、2022年3月には米国のバイデン大統領が雇用プランの一環として、テキサス州に日本の技術で高速鉄道を建設するプロジェクトを発表したが、これはどうだろう。ヒューストン―ダラス間、約380kmを90分で結ぶというから、距離は台湾高速鉄道と同程度。しかし、バイデン大統領は「公共交通の整備」も雇用プランに掲げているが、アメリカの社会を考えると「高速鉄道に乗るまで、降りた後の移動手段は?」と心配になってしまう。

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ちなみに、私は22年4月にダラスに滞在していたが、現地のビジネスマンと会話しても誰もこのプロジェクトを知らなかった。私がプロジェクトが現在進行中であることを伝えると、彼らは一様に

「そんなのカネの無駄遣いだ。プロジェクトを主導している政治家はアメリカのことがわかっているのか⁉ クルマ社会のテキサスで、駅に着いてからどうすればいいんだよ」と語っていた。