カップ麺が1分で完成しても価値は3倍にはならない

では、着々と建設が進められてきたリニア中央新幹線は成功するのだろうか?

2027年に開業が予定されている品川―名古屋間は約285km。この距離が、最高時速505kmのリニアモーターカーによって約40分で結ばれるという。突発的に「1時間以内に東京から名古屋に行かなければいけない」という事態に遭遇した人には、唯一の移動手段となるだろう。しかし、そんな人がどれだけいるだろうか。それ以外の人々にとって、リニア新幹線の速さはどれだけの価値を持つのだろうか。

そもそも前述の通り移動手段の価値基準は「速さ」から「快適さ」へと重心が移りつつあるが、それ以前から「速さ」がもたらす価値には一定の限界があったはずだ。

たとえば、お湯を注いで3分で食べられるカップ麺は世界的ヒット商品となったが、調理時間を1分に短縮したところで売り上げが3倍にならないことは、すでに実証されている。また、調理時間が5分という商品も、市場で特に劣勢というわけではない。つまり、カップ麺の調理時間に求められる「速さ」は、3分前後で価値をもたらす限界に達するということだ。

カップ麺
写真=iStock.com/SUNGSU HAN
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リニアは速すぎて従来の鉄道と同じ通信手段を使えない

現代の移動手段では、ある意味で速さよりも重要になる「快適な作業環境」という要素はどうだろうか。前述したクルーズ船や、飛行機では衛星回線を使ったインターネット・サービスが利用できるが、鉄道で衛星回線を利用している例はまだ聞いたことがない。そして、リニア中央新幹線は従来の鉄道と同じ通信手段を使うには「速過ぎる」という問題を抱えている。

JR東海はホームページにリニア中央新幹線に関するFAQのコーナーを設けていて、

トンネルの中でも電波はありますか。(車内で携帯電話やPCのインターネットは繋がりますか。)(原文ママ、以下同)

という質問に対して次のように回答している。

営業線での携帯電話やインターネット接続サービスは、今後の世の中の技術の動向やお客さまのニーズを踏まえ、より良いサービスの形を今後検討していきます。

要するに、現時点では問題が存在し、それが解決できるかもわからない、ということだ。大丈夫か⁉

編集部註:JR東海は、プレジデントオンラインに対し「リニアの走行環境における通信について、現時点で実用化の見込みは立っている」と回答しています。